百万遍 青の時代 上・下



作者:花村萬月
発行:新潮社 2003.11.15 初版
価格:上\1,800/下\1,900

 花村萬月のライフワークとも言うべき大作のスタート。四部からなる構成の予定であり、本書『青の時代』は『百万遍』シリーズの第一部に当たる。第二部は現在も『小説新潮』に連載中。大型連載を複数作続けているその旺盛なワーカホリックぶりは、現在作家自身による公式ホームページ『ブビヲの部屋』に詳しい。第一ここの日記は、相当に読み応えがあって面白い。

 日記は作家自身の一人称だが、この小説は三人称で書かれる。主人公は現実の過去を生きた萬月自身をモデルとし、自伝的物語であると言っていい。これまでの作品も自伝的要素の強い花村ワールドではあるけれども、本作は私小説という意味合いにおいてとても時代性を帯びた個人史の部分を感じる。70年代初め、高校を退学した日に始まる物語。書き出しは「今日、三島が死んだ」。

 時代の縫い目を潜り抜けるフーテンでヒッピーでデカダンで破滅的な青春。15歳の少年が、暗いアウトローたちと出会い、そして日々を暴力と性とドラッグに塗り込められてゆく。少年の異才を構築してきた父という名の放浪の血。母への焦がれに重ねられた背信の足跡。家族や愛情への餓え。渇いた理性と、滾りながらも奔出の場所を見出せない日々に重ねられてゆく季節。

 『ゲルマニウムの夜』に続く『王国記』という中短編小説群こそ、萬月の自伝でありライフワークであると確信していたのだが、施設時代、少年時代を題材にしたこの小説群も原風景から少しずつスライドしつつある違和感を感じ始めていた。小説世界が独自に膨らみ続け、奇怪な成長を遂げ、主人公以上に、周辺の人物たちが個性を持って歩き始め、全体では群像小説のような気配を身に纏い始めている。だからこそ、原点である自分史に戻るべく書き始められたのが、本作なのではないかと思えてくる。

 『鬱』『ぢん・ぢん・ぢん』『二進法の犬』『風転』と続いてきた花村大作群にひさびさに加わる新たな一ページであり、過去のすべての記録を塗り替える長大とスケールと気迫を持って流れゆく、裏社会のクロニクル。

 何よりも流麗な筆致に作られる文章のリズムに身を任せる快感が嬉しい。今、日本で、最も文章の巧い作家とぼく自身は確信している花村ワールド、ひさびさのエンドレス大作に身を震わせる思いをした。