アリゾナ無宿




題名:アリゾナ無宿
作者:逢坂剛
発行:新潮社 2002.4.20 初版
価格:\1,600

 ロバート・B・パーカーが『ガンマンの伝説』を書いた同じ年に逢坂剛が同じようなピュア・ウェスタンに取り組んだ本を出すなんて、おそらく偶然なのだろうけれど、滅多にないことだけに相当に不思議。

 パーカーは3-4ヶ月で一作を一気に書き上げてしまうという集中力を使うことのできるアメリカ的ベストセラー作家境遇なのだけれど、最近の逢坂剛は博報堂時代の二足の草鞋のよい意味でのアマチュアリズムが影を潜め、じっくりと作品を書いてはいないのが見え見えになってきている。この作品も雑誌に何度か分けて出したものを後で加筆して纏めてあるという日本作家定番のスタイル。

 『ガンマンの伝説』はさほど凄い作品でもなく集中力がある作品であるとも言えないのだが、それでも数ヶ月で纏めて書かれた本と、何回かに分けられて書かれた本ではやはり雰囲気が違う。本書の方が味わい的には短篇に近く、エピソードの積み重ねというイメージが強い。

 言わばウエスタンとはこうなんだみたいな趣味的な部分の装飾は多いけれども、肝心要のストーリー展開やら、最後の話の閉じ方といったところではかなり物足りない。

 パーカーは十分に能天気な部分のある陽気な作家だと認識していたけれど、逢坂剛がその部分でパーカーを遥かに上回るとは予想もしなかった。アメリカの西部開拓史を語る上での道具立てはウエスタンに必需のものだけれど、無宿の旅はそういつまでも続かないだろうし、パーカー的米国西部経済の論理の中で、保安官でもやって食いつないでゆかねばならないワイアット・アープはやはりリアルだったと思う。

 リアルでありながらアープは非常に殺人を躊躇わぬ冷血なタレントであり、一方逢坂版バウンティ・ハンターであるストーンは殺しを避けるかなりジェントルなおじさんであるあたりが、東西における銃器/殺人との距離感の違いなのだろう。このあたりはもっぱら佐々木譲あたりが、娯楽性という意味においても、歴史的残酷さという意味においても、先にクリアしているハードルであるような気がする。

 逢坂はやはりトータルに甘くなって来ているなと、やや失望しています。

(2002.08.18)
最終更新:2007年05月29日 23:13