デズデモーナの不貞



題名:デズデモーナの不貞
作者:逢坂剛
発行:文藝春秋 1999.3.30 初版
価格:\1,524

 調べてみると短編『まりえの客』は1988年の作であった。短編集『まりえの客』はスペインものと逢坂心理サスペンスの混在する短編集で、舞台になるバー「まりえ」は表題作にしか登場しなかった。その5年後、逢坂剛はこのバー「まりえ」を短編シリーズ化する決意を固めたらしい。1993年から1997年までに『オール讀物』に掲載されたその短編シリーズをまとめたものが本書。

 池袋西口の一角に時間に取り残されたようなバー「まりえ」がいて、カウンターの中のハードボイルド風美女・沢野まりえは事件を引き寄せる謎めいた存在。何だか劇画風で、とても活字を追っているとは思えぬほどページをめくるスピードに加速がかかるイージー・リスニングならぬイージー・リーディングと言うべき、とことん娯楽に徹した一冊。

 「プロットは……トリックを越えた」は逢坂剛の代表的傑作『百舌の叫ぶ夜』の帯に書かれたキャッチ・コピーだが、まさに逢坂節は、トリック以上に、文章のめくらましによって読者をミステリアスな世界へと運び込む。読者の思い込みを利用した仕掛けの多さにはいつもながらに舌を巻いてしまう。

 軽く、しかもしっかりと面白い短編集を読んでみたいほんのひとときがあれば、十分にそのニーズに答えてくれる本と言ってよさそう。

(1999.04.16)
最終更新:2007年05月29日 23:02