スペイン灼熱の午後





題名:スペイン灼熱の午後
作者:逢坂剛
発行:講談社文庫 1987.6.15 初刷
価格:\520(本体\505)



 S・ハンターの『さらば、カタロニア戦線』の影響でスペインものをどんどん読もうかという気持ちが沸き上がったのと、逢坂作品の読破にはあとこれだけなのだったな、ということに気づいたのとで、読み残し本を手に取った。作者がこれを発表した時期、まだ『カディスの赤い星』は、直木賞どころか発表もされていなかった。長過ぎるというので出版社側が拒絶していたのである。そんな時代があったのである。ううむ、そんな時代は断じて許せんのだ。

 そんな時代に『山猫の夏』の船戸与一がいて、なんだ長い作品でも行けるじゃないかとの出版社のポリシーのない転身に載せられて出した作品が『カディス・・・・』であり、こいつがなんと直木賞までかっさらった。冒険小説という分野が日本でも公に認められるようになった嬉しい時期でもありますね。

 というわけでこれは『カディス・・・・』前夜の作品。夜明け前だから、作者のスペイン小説初長編とはいえ、『カディス・・・・』に比べたらずいぶん分量的に見劣りする。しかし、内容は娯楽色いっぱいであり、中でも殺し屋は、しつこくていい。かなり作り物っぽい感じが全体にあって、偶然性が作者の都合で如何様にでも曲げられたりしているのであるが、もともと逢坂作品ってこういう傾向にあるのだな、とはたと気づく。『百舌の叫ぶ夜』だって偶然でしか書けない作品だったんだ。

 そうした都合の良さが鼻についてたまらんわい、という方にはあまり勧めたくない作品ではあるけれど、なぜか面白い展開やどんでん返しの多い逢坂作品って、病みつきになってしまうんだよねえ。ということで、これで逢坂読破しました。

(1992.12.06)
最終更新:2007年05月29日 22:44