砕かれた鍵



題名:砕かれた鍵
作者:逢坂剛
発行:集英社 1992.6.25 初版
価格:\1,400 (本体 \1,359)

 逢坂剛の作品のうちでもスペインものでなく、また心理サスペンスものでもない、警察小説であるからして、要するに系統的には『裏切りの日日』『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』に続く、いわばシリーズもの。4作を通して出演しているのは津城警視正ただ一人だが、この作品は前二作を受け継いだ形で倉木・大杉・美希の刑事トリオが複数主役を勤める。まあ前二作の主役は正しくは”百舌”であったと言えるだろうから、正確にはポスト”百舌”ストーリーと言ったほうがいいだろう。

 さてこれは読んで二週間ばかりが経過した今書いている感想なのだが、正直なところぼくは内容をあまり憶えていないのである。けっこう面白おかしく読めて、ハラハラドキドキもしたし、懐かしい登場人物のその後の動向に驚きもし、クライマックスでの思わぬ展開、相変わらずのどんでん返しに感心もしたはずなのだ。それにも関わらず『百舌……』や『幻……』のようにいつまでもその内容を憶えてはいないのである。これは要するに作品、あるいは作中人物の持つインパクトの低下によっているのではないかとぼくは思う。

 前二作は何しろ希代の殺人者”百舌”のインパクトで持っていたような作品だし、特に『百舌……』はその正体判明に至る経路こそが、読者をして傑作と呼ばせしめるような作品の支柱であり命であったのだ。そのインパクトは当然二作目で弱まり、三作目となるとまあ、通常の面白小説の域を出ない、というくらいまで……要するに逢坂剛の才能としては最低ラインまで落ちてきた、シリーズの底なのである。

 しかしながら、シリーズとして読まなくても適度に楽しめる面白小説で、プロットには相変わらずの錯綜した巧みが溢れている。サスペンスとしてはかなりの高レベルにあると思う。それでも同じ作者が何故スペインを題材にしたときと同じレベルで人物への感情移入をさせてくれないのだろうとも思う。もともとその傾向の作家ではないと思うが、ハードボイルド的精神を一滴でいい、ビターのように垂らしてはくれないものか、などと願うのはおそらくぼくだけではあるまい。

(1992.07.30)