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ラスト・ドリーム


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題名:ラスト・ドリーム
作者:志水辰夫
発行:毎日新聞社 2004.09.30 初版
価格:\1,700




 志水辰夫は自分に制限をかけなくなったな、と本書を読んでつくづく思った。その分だけ書きたいという方向性が主体的にになった。読者におもねるのではなく、自分が小説を書くことで創り出しつつ、思念を紡いでゆく方向。面白い小説を書く作家から、最近では花村萬月に近いわがままさが出てきた。これを歓迎すべきか否かは、読者次第だということだろう。

 本書からは、新聞小説ならではのゆったり感もあるだろうがそればかりではなく、作者の側でのリズム、つまり思念の空気のようなものを嗅ぎ取ることができる。無理に形に収めようというのではなく、ある程度自由な時間の流れを人の通常の思念のように行き来し、全体像は終わったときに見えてくるという形である。

 推理小説でも冒険小説でもないのだが、全体像は、志水辰夫がこれまで描いてきたハードボイルドに通じるところがある。この人はいつもストーリーを描きながらも、叙述してきたのは徹底して人間の生き様、つまり具体性であったからだ。

 本書から想起される有名な映画は『HANABI』ではないだろうか。寂しい海辺。砂浜。ガンで死に行く妻との最後の時間。こうした状況を描かせて真に切なさに胸が詰まりそうになる作家の第一人者は間違いなく、この作家志水辰夫だと思う。その筆力、感性、客観、すべてのバランスを日本語という屈折した言語をもってして見事に見せつける職人の匠がここにある。

 この長編小説の中には数人のガンによる死が描かれる。かつて短編集で死と見つめ合い、別離を描いてきた志水辰夫が、長編小説という形で改めて、銃撃でも硝煙でもなく、日常の静寂に包まれた死と別れとを描こうと試みたもののようにも思えてくる。

 さらに超自然的な現象、宝探し、という題材も軽く絡める中で、当然思い描くのはこの作家が書いてきた『滅びし者へ』であり、『あした蜻蛉の旅』である。

 舞台は、函館、黒松内、札幌、夕張といった北海道に加え、企業小説的側面を見せてゆくタイでの商社マンとしての生活、阿佐ヶ谷でのマイホーム等々。いわゆる長編大河小説のような作りでありながら、どこかミステリアスな空気をまとった北のハウスとそこの住人を常に軸に回してゆく。

 ひねりが利きつつ純朴。男の夢想主義と女の現実主義とを常に反目させながら、壁を貫く情愛を実に上手く描き出す大人のためのラブ・ストーリー。重く、深く、何よりも心動かす一冊である。

(2005.01.03)