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深夜ふたたび



題名:深夜ふたたび
著者:志水辰夫
出版:徳間書店 1989.05.31 初版
価格:\1,262

 ギャビン・ライアル『深夜プラス1』へのオマージュと聞いて、わくわくしていた本である。ぼくはライアルは、『深夜プラス1』しか読んでいないのだが、これがたいへん気に入ったので、他の著書もたんまり買い込んではあるのだ。

 さて本書も、基本的に車を使った冒険小説である。かつて左翼闘争の一貫として、ベトナム戦争を嫌って脱走する米兵を無報酬で根室に運んでいたという経歴のドライバーが主役だ。本職のドライバーではないが、裏輸送ルートに通じているという点で、一種のプロの運び屋ではある。

 しかし彼は肥満に悩んでダイエットをしたり、失った若さを嘆いてみたり、世をすねて山奥に引きこもった生活を送ったり、とあまりスマートな主役ではない。そして今度の仕事で彼を取り巻くのが、『深夜プラス1』で重要な役を演じるガンマン。ただしアル中の恐れのあるのは彼ではなく、むしろ主人公のほうである。それにどうしても金がいるのでこの仕事を買って出たという看護婦。そして運ばれる当の本人は、酒を食らい、だらしのない風体をした初老の肥満男である。この4人が、京都を出て根室をめざすところから話は始まる。しかも出発地転にははやくも死体がごろり。

 この設定だけでじゅうぶん読ませるのはさすがに下地となる『深夜プラス1』のできがいいせいもあるのだが、これを日本に舞台を移したうえで、自分流に展開してゆく切り口たるや、まさに志水辰夫の魅力満載なのである。

 文体はあいかわらずこだわりが多く、強烈な個性をそれ自体が持っている。背景には自衛隊・スパイ・陰謀・裏切りなどの要素が加わるのだが、志水作品はその辺の書き込みを重視しない。人物を表現することのほうに、エネルギッシュなまでのこだわりを見せるのである。だから、バックボーンにあたる物語はあくまで、主人公たちを昇華させる手段にしか過ぎないのだ。そしてそのことがよくわかるのは、いつもラスト・シーンだ。

 男と男の、また男と女の会話がいい。すべてが終わり屍が散乱する夜の中で、銃創を負って倒れた男が、冗談に高笑するシーンは圧巻である。このように人物を描ける作家が、最も人物を描けるジャンル=冒険小説界にいてくれてよかった、とつくづく思うのである。

(1990.04.07)