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尋ねて雪か


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題名:尋ねて雪か
作者:志水辰夫
発行:徳間ノベルズ 1984.11.30 初刷
価格:\680

 雪の札幌を主舞台としたハード・ボイルド小説である。これを読み始めたのは、そもそも東京に大雪が降り始めたからである。おまけにぼくは風邪か扁桃腺炎かなにかで、熱を出して寝込んでしまった。だから時々窓の外の降りしきる雪に目をやりながら、この本を読んだのだ。そしてこの本がまた、いいのだ。

 雪の札幌はぼくも訪れたことがある。雪祭りにはまだ遠い季節で、大通り公園ではホワイト・イルミネーションと呼ばれる電飾が施されていた。たいへん奇麗なものである。雪降る夜空に、テレビ塔が時刻を表示していた。街頭の温度計が、マイナス5~7℃を示していた。で、その辺の情景がこの小説には、満遍なく出てくる。しかも旅行者の眼で見た札幌はどこかエキゾティックで、そのままハード・ボイルドの街になる。なるほど札幌もこういう使いかたがあったか。

 そして志水辰夫の作品では、ぼくにとっては初めての3人称小説であった。3人称になった理由はよく解る。主人公がこれまでの日常人とは少し違うのである。やくざ者なのだ。そしてある種の仕事を請け負って札幌の街にやってきたあたりは、日本のそこらの探偵よりもずっと探偵らしく感じられたのが不思議だ。ハード・ボイルドで言う探偵というのは、やはり腕っ節が強くなくては行けないし、こわもてでなくてはいけない。そういう意味で、主役の条件を満たせるとなると、こと日本に限れば、はみ出し者だけになってしまうのだ。

 刑事が主役である場合も多いけれど、これの場合どうしても一匹狼的な色合いが失せてしまうからね。二村刑事なんかそのイメージを消すために、わざわざ休日に事件を追っていたものなあ(『リンゴオ・キッドの休日』参照)。

 そういう設定も巧いが、プロットもいい。そして何よりも素晴らしいのが文体だ。ここまで3冊の志水作品を読んでみて、ああ、このひとは文体の作家なのだなあ、としみじみ実感させられてしまった。


雪しかみえなかった。


 この書き出しである。この文章はまた、他の場面でも何度も繰り返される。そしてこれは札幌の現在の情景であると同時に、かつての彼の生い立ちの集約でもあったのだ。子供時代の彼には、「雪しかみえなかった」のである。あまり詳しく書くことは許されないが、ともかくぼくは感動のあまり泣きそうになったよ。そういうシーンが少なくとも3ヶ所はあった。そしてこういうシーンを違う文体で書いてくれれば、もっとよそよそしく乾いた視線で読むこともできるのに、と作者を恨んだほどだった。

 ぼくはちょっと、やばいなあ。志水辰夫がすっかり気に入ってしまったなあ。やばいというのは、また憧れの未読本が増殖したなあということ。でも、すっごく自分では喜んでしまっているのだ。志水辰夫に出会いたい方、『裂けて海峡』が手にはいらない方は、本書が書店に積まれている今、ぜひこれを手に取ってみてください。かなり心のこもった力作です!

(1990.02.03)