オンリィ・イエスタデイ





題名:オンリィ・イエスタディ
作者:志水辰夫
発行:講談社 1987.12.10 初版 1989.9.20 2刷
価格:\1,130(本体\1,097)




 この本をなかなか読む気になれなかったのは、 なんだか軽薄そうなタイトル故です (^^;) ただそれだけで、なかなか手に取りませんでしたが、ここの特集を機会に未読本を片付けるということで。

 これは、 また志水にしては珍しくトリッキーな小説。『花ならアザミ』もまあ、 トリッキーといえばトリッキーなのかもしれないけど。そういう意味では本作も志水節の主流ではなく、 きっと亜流なんだろうなあ。『狼でもなく』のラスト・シーンから、 この作品の出だしは舞台が非常に近い場所、 似通った場所であるため、なんか調子よく読書をスタートできたのだが、『狼でもなく』とはまたどえらく隔たったような話であるのだった。

 この作品は面白いのだけど、 ちょっと半端さが気になるぼくであった。というのは、 まず、主人公のある種の変化なのだけど、それがなにかいきなり過ぎるというか、 なんでまた急にそんな風になっちゃったの? だったらなんで今まではそれで平気だったの?  というような疑問が底流にあると、 とっても読めなくなっちゃう小説なのである。ま、そういう作品の存在基盤の不安定さをなだめながら読めば面白いのだけど、 ラストは志水作品にけっこう多いミスなんだろうと思うけど、 書き急ぎの印象がとても強かった。途中までのテンポが急に不自然なほどに変わっちゃった印象が、どうしてもあった。

 クライマックスがせっかく盛り上がっても、 最終的には中途半端というか、 失速しちゃったようで、ぼくには物足りませんでした。けっこうそこまで丁寧に描いているシーンが多かったけにもったいない。 この感覚、志水作品において、 ぼくはしばしば感じることである。一年一作というゆるりとしたペースなんだけど、 それでも志水みたいにきっちり書き込んでいくタイプの作家にはちょっと足りないのじゃないだろうか、時間……。

 読者の贅沢と言えばそれまでなのだけど、 生活という創作とは矛盾したものによって、 食いつぶされる部分、これをぼくは憎んでやまないです。志水辰夫作品は、好きであるだけにぼくは惜しんじゃうのだ。

(1992.10.11)