狼でもなく



題名:狼でもなく
作者:志水辰夫
発行:徳間書店 1986.11.30 初版 1989.7.31 4刷
価格:\1,030(本体\1,000)

 今の志水作品に較べると大変荒削りな感じはしたのだけど、 事実上の長編第一作でありましたか、なるほど、なるほど。肯けます。

 どういう点が荒削りと感じたかと言うと、 まず設定。志水作品ではどちらかと言うと、 素人のアルバイト的な事件への参入が目立つのだけど、この作品ではまず元プロフェッショナル。ゆえに体力的にも精神的にも強い。そしてベトナム終戦時の混乱をひきずる、 背景の大きさ。こうした派手さが、 今の志水作品にはなかなか見られないもので、これからの志水辰夫が向かおうとはしない方面であろうなあ、とぼくは予想しちゃった (^^;)。

 それとは別に当時の「国産冒険小説」という新しいジャンルのフロンティアに挑もうという志水辰夫の心意気、 あるいは熱意みたいなものが、そこここに感じられてなかなかに熱い本ではあった。 逆に言えばその華々しさ、アクションの激しさ、炎の巨大さが、他の志水作品に馴染んだ目には、少しばかり見慣れず、 少しばかり荒削りに見えちゃうんではないか、とも思える。

 ラスト・シーンに凝っていないのが残念と言えば残念。 前半のまどろっこしい展開(先が見えないのはいつもの志水の特徴であるにも関わらず(^^;))が、後半一気に加速してゆく面白さはさすがなので、クライマックスでのこちらの熱をもっと扇って欲しかった気もする。

 主人公がかなり特殊なので共感度が低いのは容易に予想できるけれど、翻訳小説は大抵こんなものだと思えば、 あながちそのことを非難もできない気がしました。

(1992.09.27)