虹物語





題名:虹物語
作者:志水辰夫
発行:集英社 1995.4.30 初版
価格:\1,400(本体\1,359)



 志水辰夫というと本当に長編作家で、ある程度寡作で、極めて丁寧な作品作りをするいわゆる頑固者とのイメージがあったのだが、最近とみに短編に目覚めたらしいのはともかく、ハードボイルド短編というのだけは書いていただけない様子で、この点が非常に残念。

 本書は売れゆきの良かった前短編集『いまひとたびの』の死と生を見つめるような重々しさはなく、むしろ冗談さえ交えた軽めの文体で、ならされたような作品集。藤田宜永の後に読んだせいか、志水らしい文章への味わいはともかく、基本的にそれ以外の収穫はないかな、という、いわゆる純文学めいたストーリー性のない世界であった。

 ということで、これは志水ファン以外には勧めません。志水節もほとんど見られないといっていい。短編にしては書き込まれるディテール、長篇ともどもこの人の領分である会話の饒舌さ・・・・ といったものが印象に残りました。

(1995.05.28)
最終更新:2007年05月28日 21:43