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いまひとたびの




題名:いまひとたびの
作者:志水辰夫
発行:新潮社 1994.8.20 初版 1994.12.5 8刷
価格:\1,400(本体\1,359)




 志水辰夫の純文学とでも言おうか。短編集であることも純文学であることもどちらも珍しく、その分一般読者に受け入れられたのか、「本の雑誌」の94年度ベスト1作品に選ばれてしまった。

 読んでみて出会ったのは、志水節がこういう風に使われることはいつかあるだろうと予測していた自分。『花ならアザミ』あたりから様子が変わってきたとは思っていたが、描写へのこだわりが、以前よりずっと深くなってきた志水辰夫はこういう本を書かないではいられなかったのだろうと思う。

 主人公はどれも残り短い人生への怖れと決意を漲らせて、日々を揺れながら生きている。こういう老境を若い作家に書けと言っても無理だろうとつくづく思う。志水は昔から作品中に老人や老母を登場させることが多かったし、志水は傾きかけた命の日々とぎっしり詰まった過去の記憶を、そうした人物に委ねてきたものだった。

 そういう延長として捉えてみてもいいのかもしれないが、こうした老人たちに語らせる志水節というのは、どうもしっくり似合い過ぎていて、こちらの方がぎくしゃくしちまうのだ。

 『夏の終わりに』という短編の終わりは列車での別れ。『散る花もあり』『尋ねて雪か』で見せた、一流の別れのシーンが、ここにあった。当然、泣けます。

(1995.01.11)