暗夜



題名:暗夜
作者:志水辰夫
発行:マガジンハウス 2000.3.23 初版
価格:\1700

 帯にあるほど<暗黒小説>ではなかった。そんな新しみより何より、ぼくにとってはひさびさにシミタツ節のハードボイルドが読めるってことだけで、十分価値あり。正直、シミタツが原点に帰還したような、何だか懐かしくなるような、しみじみといい一冊なのだ。

 それでも新しさは確かにあった。シミタツにしては珍しく中国、それも洛陽が物語の要衝となっており、ストーリー自体も十分に国際化している。処女作『飢えて狼』以来の本格冒険小説での海外シーンが待ち受けているという貴重な作品。

 また考えの掴まえにくい主人公、という設定も、彼には珍しいかもしれない。大抵もう少しおしゃべりな主人公に軽口を叩かせて、多くの過去や人生を語らせるのが、シミタツ節のこれまでだった。この作品では主人公の意図や正体すらわかりにくい。主人公のひねくれ度の強烈さというのは、いかにも「らしかった」けれど。

 何にしてもこの人の文章には唯一無二の味がある。いま流行りのチャイニーズの悪漢たちがいろいろ出てくるのも珍しく、しかも楽しい。とにかく筆力で読ませまくる。読まされて嬉しくなる。

 ラストの舞台設定、結末に持ってゆく荒技、主人公の狙いが最後に明らかになる下り。すべて唸らせる。本当に嬉しくなるほど、シミタツ節なのだった。

(2000.05.04)
最終更新:2007年05月28日 21:26