あした蜉蝣の旅


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題名:あした蜉蝣の旅
作者:志水辰夫
発行:毎日新聞社 1996.2.25 初版
価格:\1,950

 最近は純文学畑の短篇集にすっかり落ち着いて、たまに出すハードボイルドもわりと小ぶりのものばかり、かつての『飢えて狼』『裂けて海峡』『背いて故郷』の頃の志水節が懐かしくって懐かしくってたまらない、というのは、ぼく一人に限った話ではあるまい。おそらく多くのかつて志水節に酔った読者たちが、こういう読み応えのある志水版冒険小説の再来を待ち望んでいたのではないか。

 列挙した三作ほどのパワーは正直言って今の志水辰夫にはないみたいだし、それだけの若さをもった主人公はもう書きにくくなっているのかもしれないが、志水ワールド本来の日本を舞台にして、なおかつ怒れる自然……という本来の国産冒険小説の色彩は、この作品の場合しっかり生きている。そしてなによりものっけから「宝探し」という冒険小説の王道を狙う作者のふんばりが、ぼくには嬉しく、こうなると志水ファンというのは、とことん志水節を味わい、食らいつくしてやろうと覚悟するのだ。

 そんなわけでひさびさにじっくりと何日も何日もかけて文章を反芻しながらの読書というのを味わってみたのだ。嬉しいのは、改めて志水節というのはこういう「じっくり読み」に値する文章であるなあということ。日本語を知り尽くした独特のリズム感。こだわりのない奔放な筆遣い。男の弱さとこれを覆さんばかりの男たちの気張りと覚悟。いろいろな意味で、この作者からでなければ読み取れない多くのものを、ひさびさに重厚に味わえるのがこの作品。

 連載小説に書下ろしで後半を付けたということで、それなりに展開のまとまりを欠いているような気もするし、本当に本筋とは無縁の種々雑多な日常描写が主人公の独白によって連ねられている。こんなに無駄が多い作家はなかなかいないと思うけど、逆にこれを財産だと思える読者には、非常に有り難く、コストパフォーマンスの高い書籍なんである。

 二つの時代、舞台は北の孤島・渡島大島。現実の時代背景、現実の自然災害にも材を取って、独自の世界と接続させる。日本にもこうした冒険の舞台となる場所があったかと改めて感心させられました。敢えてこの作品をぼくは、『志水版・宝島』と評しておこうと思う。

(1996.03.09)