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冬の巡礼




題名:冬の巡礼
作者:志水辰夫
発行:角川書店 1994.10.31 初版
価格:\1,400(本体\1,359)




 なんて久しぶりの志水節なんだろう。この人のハードボイルドは本当に久しぶり。そして久しぶりに読むと、やはりシミタツはハードボイルドに限るなあとつくづく読後思ってしまう。この作品はそれほど大作でもないし、作品の出来栄えは『深夜ふたたび』くらいのものなのだと思うけど (ちなみに女々しすぎる『行きずりの街』はぼくはそれ以下だと評価してたりする (^^;))、それでもやはり「志水節が帰ってきた!」と言いたい。

 最初に志水節に取り憑かれたのは『飢えて狼』『裂けて海峡』そして『尋ねて雪か』『背いて故郷』と本当につくづく日本冒険小説の金字塔ではないかと未だに思われるような作品群ですっかり虜になってしまったものだ。その頃の志水作品の主人公たちは、『尋ねて雪か』のヤクザ者は除いて、いわゆる巻き込まれ型の一般市民であることがほとんどでありながら、ディック・フランシス系統の、誇りを持った「男」たちだった。

 そしてそういう「男」の矜持を描くことが少なくなって来た最近の流れの中で、どうしても志水節を忘れることのできない読者たちは、うめき続けてきたような気がする。そういう意味ではひさびさに巻き込まれ型だが、ある種頑固な、矜持を持った男が現われたのがこの本だと言っていいだろう。

 だからストーリーがいかに陳腐であろうが、ミステリー要素が皆無に近かろうが、ぼくはひさびさに志水節に浸ることができたのを今回は素直に喜んでおこうと思う。またこの種の志水節が連続する保証はないかもしれないから。

 さて本作は雪で始まり雪に終わる。飛騨高山の豪雪の冬。ちょうど槍・穂高の真西に位置するこの眠ったような街が、正調志水節の起点となる。日本、そしてその自然が舞台であり、その過酷な自然をきちんと作品の材料にしてゆくところ、本当に久しぶりで泣ける。主人公がこんなに怒ってしまった作品というのも、まこと久しぶりだったのである。

 すべては久しぶりということで、とにかく嬉しかったのです。

(1994.11.15)