汀にて 王国記 II




著者:花村萬月
発行:文藝春秋 2001.2.20 初版
価格:\1,286

 『ゲルマニウムの夜』に始まったこの中短編による連作大河<朧(ろう)>のシリーズも三作目。芥川賞を射止めただけあって、非常に濃度の高い空気を感じさせる点では他の萬月作品を圧倒する迫力を持っていたシリーズ、のはずであった。文体も意識して変えている節があり、あくまで純文学分野で通用する日本文学の頂点を目差すべく、萬月がかなりの意欲を注いだシリーズ、のはずであった。そう確信していた。しかし……。

 ところが、この本では落ちた。ではなく「墜ちた」、いや、「堕ちた」であるな、間違いなく。

 作品を支配する空気の濃度が歴然として薄まった。言葉遊を好む傾向が萬月にあるのは今さら言うまでもないことだが、この本に収録されている二作に関しては、中弛み時代の萬月がまたまた復活しちまったかと思える安易さが目立つ。中身がなく(あるのかかもしれないがぼくには読み取れない)、薄っぺらで非常に、極度につまらない。

 物語は敢えて全然と言っていいほど前に向かって進行していない。このシリーズにとって、なくってもいい、いや、ないほうが良かったのかもしれない作品だと思っている。前作までの濃度が保たれないのなら、シリーズを打ち切っていいと思う。そうでないのなら、この本は外伝としておいた方が良いと思う。

 他の作品であるならともかく、『ゲルマニウムの夜』から続いている同じ時空間の物語だからこそ、読んでいて許せないものがあった。一人称を辞めて欲しいとは言わない。けれど、前作までの過密な文体をこんにまでスカスカに空疎化して欲しくはなかった。ひさびさに萬月作品を思い切りけなしてしまうことになって、すごく残念だ。

(2001/04/28)
最終更新:2006年11月23日 18:40