R.P.G.




題名:R.P.G.
作者:宮部みゆき
発行:集英社文庫 2001.8.25版
価格:\476



 売れっ子作家の文庫書き下ろしというのは珍しいし、読者にとっては有り難い。こんな形になったのも、長編というには短か過ぎるし、中短編集に入れるには、長過ぎるし。と帯に短く襷に流しのサイズになってしまい、作者としても処遇に困ったみたいである。文庫書き下ろしというのは、そんな中での最終的な選択肢だったとか。

 だから読み始めると、さすがの遅読のぼくでも二時間強ってところで読み終えることができる。イージー・リーディングっていう感覚の本であるかもしれない。だからと言ってサイズがすべてではない。面白さがあるから一気に読み終えることができるのだ。ちなみにロバート・B・パーカーのスペンサーものなどは、ぼくは同じ感覚で捉えている。タイトでコンパクトでかつ面白い。時間のない読書家にとってはやっぱり有り難い本である。

 軽い本だと言っても、ここにはちゃんと『クロスファイア』の石津刑事と『模倣犯』の竹上刑事が登場してくる。それなりに宮部みゆきにとって重要な主人公を配し、そして主題は……『模倣犯』のような現代若者像、あるいは『理由』みたいな模擬家族像、インターネットという垣根のない会話の意味……現代人間社会のひずみや悲鳴のようなものを書かせると、ここのところこの作家の右に出る者はいないんじゃないかって気がする。

 そうした現実や時代にきちんとマッチした内容の密度もさることながら、次第に明らかになる作中に仕掛けられた罠についても思い出すのが楽しい本だ。ラストのどんでん返しが読者をきちんと待ってくれている。だから内容は絶対に洩らしてはならない。

 シドニー・ルメットの映画『デストラップ』は舞台劇を映画化した作品であった。この作品『R.P.G.』は舞台劇を思わせる構造でもある。いつか本当に舞台に乗るかもしれない。

 ……おっと、少しお喋りが過ぎてしまっただろうか。

(2001.09.06)
最終更新:2007年05月27日 23:19