死神




題名:死神
作者:篠田節子
発行:実業之日本社 1996.1.25 初版
価格:\1,600

 市の福祉事務所に勤めるケースワーカーたちを主役に据えた連作短篇集。もともと作者自信が市の職員で福祉事務所にも勤務していた経歴。だから『夏の災厄』などに見られるように、市の職員という立場のキャラクターが主役に据えられるのは当然と言えば当然なのだろう。

 もっともぼくの場合、卒中から身障者となった母親を身近に抱えているせいで、この種の職員の方々には日頃から一方ならぬお世話になっている。自分の仕事との繋がりも全くないわけではないこともあり、ケースワーカーとの相談に始まり保健婦さん、民生委員、と日本の地域医療、福祉行政の生々しい姿にある意味で接点を持っている。だからもう読み始めの時点から、構えてしまって読みにくいったらないのだが、なんとあとがきでは作者が、書きにくい作品だったと述べていた。

 現実には庶民というのは、福祉と密接な関わりを持っているのであるし、この連作集でも、職員自らの生活にまで切り込んでゆくところなど現実以上のリアリティを感じた。もっとも作者はそういう現実性にゆだねない話を書きたかったようで、その作家的「志」は読んでみてなるほどとうなずける部分が確かに多かった。

 作者特有のホラー的側面、一連の芸術小説への接点などジャンルを越えての篠田ワールドと言えそうである。短編でありながら、何人か、本当にいそうで、印象に残るような人物を配置しちゃうところなど、並みではない作家的資質をぼくは感じた。格好のいい人は一人も出てこない。庶民的で存在感のある欠点だらけのキャラクターたちというのは、もはや篠田節子作品の財産なのだろう。 

(1996.03.09)
最終更新:2007年05月27日 22:36