ベルリン飛行指令


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題名:ベルリン飛行指令
作者:佐々木譲
発行:新潮ミステリー倶楽部 1988.10
価格:\1,733



 その重さのあまり、長いこと寝転がって読んでいると本当に手が疲れてしまう佐々木譲の第二次大戦シリーズ第一弾。重さは物理的な意味のみならず、その中に詰められたヒューマンで雄々しいストーリー自体のものでもある。ゼロ戦がベルリンに飛んだ。一言でいえば、この本はただそれだけの話だ。そしてここで語られるのは、かつてベルリンに向けてゼロ戦を飛ばした『素晴らしきヒコーキ野郎』そしてまた『ライト・スタッフ』たちの話なのである。

 単純に、子供の頃、ゼロ戦やスピットファイアーを組立たことのある人なら、この手の話にはたまらない郷愁を覚えるのではないだろうか? なけなしの小遣いをはたいてプラカラーを買い、雑誌『丸』の写真を参考にしながら翼を塗装したことのある人ならば・・・。

 映画『空軍大戦略』(原題「バトル・オブ・ブリテン」だったかな?)のある場面で、ドイツ軍の飛行士が、上官にイギリスの空を制するためにはなんでも与える、何が欲しいのか? と問われて、「スピットファイアーが欲しいです」と応えるシーンがあった。そしてその会話が、冒頭間もなくこの本に出てきたときには、既にぼくはこの物語の虜になってしまっていた。ぼくの子供の頃の漫画やドラマの主流を締ていた第二次大戦のゼロ戦もの。この本は、あの頃の飛行機への夢想や大空への憧れが、知らず蘇って来る一冊なんだ。

 ぼくはしまったことに第二作である『エトロフ発緊急電』のほうを先に読んでしまったのだが、 何と重複する登場人物が多いではないか。 細かいところでは『エトロフ』で騙されて無線機を作り上げていた技師が、ここではゼロ戦に飛行帽と同調するラジオを搭載してくれる。他にも多くの馴染みのある人物が、一種の「シリーズもの」の空気を香らせている。『エトロフ』でもベルリンに飛行機を飛ばしたことが書かれていたから、やはりこれは順繰りに読んでいくべき本であった。

 ただし冒険スパイ・アクションものとして『エトロフ』が際だって優れているのに比べて、『ベルリン』の筋運びは単調かもしれない。アクション自体よりは遥かに準備工作その他、つまりこの途方もない計画こそが主役化しているといえる。そういう点ではカッスラーの『タイタニックを引き揚げろ』を想起させるような、それ自体が雄々しい夢と浪漫なのである。冒険小説の醍醐味をそここに満載したすかっと涼しい物語なのだ。

(1990.08.16)