勇士は還らず



題名:勇士は還らず
作者:佐々木譲
発行:朝日新聞社 1994.10.25 初版
価格:\1,600(本体\1,553)

 『朝日新聞』夕刊に連載されていた新聞小説。連載当時『朝日新聞』を取っていたけれど新聞小説を読むようなコンスタントな生活を送っていないので、こういうのはぼくは本になってから読むことにしている。新聞小説らしきリズムというのは確かにあると思う。これまで読んできた新聞小説というのは、書下ろしででは絶対にあり得ないような何となくのんびりしたムードが漂っているような気がする。

 作者が、日々新聞掲載量だけ書いているとはとても思えないけど、それでも長いレンジで手直ししながら掲載してゆける形態であることを考えるとそういうやや淡々たるリズムっていうのは、こういう一冊の本の中にどうしても残ってしまうものなのだろう。

 さて本書は舞台がサンディエゴ。日本人旅行者が殺害されるが、そこには過去サイゴンで起こった爆死事件が関連する、というミステリーとしては一応の道具立てであるのかもしれない。佐々木譲は面白い小説を書こうとしている姿勢がよくわかる作家なのだが、この本ではその姿勢が、逆にキャラクターのリアルさというのを放逐した結果になっているかもしれない。

 面白さとキャラの人間臭さというのは決して同居できないものではないのだから、高校時代の特別な体験を共有した男女が40過ぎになってどのような形でサンディエゴに集結べきか、と考えると、やはりこの小説の想像力はせっかくの素材でありせっかくの過去でありながら、現在にまで伸びきっていないように思われる。その辺が少し寓話的過ぎて残念。

 一方で第二次大戦シリーズのような歴史考証の背景の元にしっかりした想像力を翔かせることのできる佐々木譲であるからこそ、このようなサスペンス小説の方にも、さらに現実的な人間関係を持ってきてほしいと思ってやまないのである。謎を引っ張るわりに、終盤の解決法も物足りなくちょっと尻切れであったなあ。

 40歳を過ぎたばかりの、主人公たちと同年齢の人たちの感想を聞いてみたい気がする。

(1994.11.11)
最終更新:2007年05月27日 22:21