五稜郭残党伝




題名:五稜郭残党伝
作者:佐々木譲
発行:集英社 1991.1.25 初版
価格:1,300円




 後書きによると、 これは「小説すばる」1990年秋季号掲載の407枚に200枚の加筆訂正をした上で、単行本として出版したものだそうである。タイトルを見て瞭然だが、函館五稜郭戦争の後、降伏を拒んで奥蝦夷の地に逃走した残党たちの物語だ。残党狩りは歴史上でも、戦争の後半年ほども続いたことになっているらしい。

 本書ではまず北海道の東端に近い床丹の海岸で発見された塚とその内容がノンフィクションとして紹介されるところから始まる。つまり同作者の第二次大戦ものと似たような出だしなのだ。塚からはふたつの首なし白骨が発見され、同時に作者の想像を翔かせるに足る様々な遺品が発掘された。これを五稜郭残党の遺骨という仮定で、物語はスタートする。

 物語の背景はまさに北海道の創生期のことであり、北海道に個人的に興味を寄せるぼくにとってはなかなか読み応えがある。特に感じたのは、被圧迫民族のアイヌたちの悲劇であるが、同時に長崎から落ち延びてこっそりと森の中に隠れ里を営む切支丹たちが神道を担ぎ上げた新政府からまたも隠れねばならないことや、残党狩りの犠牲になってゆく歴史の落とし児たちの過酷なまでの運命は読んでいて耐え難いものがある。明治維新とは実に身勝手な権力の転化でしかなかったこと、その暴虐の種子は第二次大戦まで脈々と育まれ続け、弱者を食い物にしてゆく。そういう、歴史の断面をこの小説はこれでもかといわんばかりに訴え、えぐり抜いているように思われる。

 主人公は二人の幕府伝習歩兵隊隊士。一人は思想的にリーダー・シップを取り、他方はガンマンに徹しようとする毛色の違った二人。二人の奥蝦夷での戦いぶりは、まさにウエスタンそのもので快く、アクション・ファンには答えられない銃撃のシーンが連続する。馬での原野の逃走シーンも、『明日に向かって撃て』を想像させるほどに、美しくスリリングである。基本的にはアクション小説なのだが、最後まで強者に徹することのできない二人と時代状況が、作品を憤りにまみれた切ないものに仕上げてしまっている。

 泣くに泣けない民族の圧迫の歴史と、汚され行く原野の運命を現代にも訴えかける本になってしまっているところが、何ともやり切れない。アクションの名シーンが快適なだけに、サム・ペキンパーめいて、時代の傷痕がなおさら痛く感じられるのである。

 佐々木譲は筆遣いがうまく、ついつい文章に乗せられてしまう。速読のしやすい筆致ではないかと思うが、この手の作品では常に時代が背後にうめいていて、どうも軽々しく本を閉じることができないのだ。高く高く評価したいが、それとは無関係に後味の非常に悪い本です。

(1991.03.03)