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笑う山崎



題名:笑う山崎
作者:花村萬月
発行:祥伝社 1994.3.6 初版
価格:\1,500(本体\1,456)

 連作短編集……と言うけれど、 結果的には長編小説だな、 これは。最初の一作『笑う山崎』50枚のみを書いたつもりの作者が、編集さんに言われて続編を連作形式で書いて行ったらしい……とあとがきに書いてある。作者にとっては最初の一作だけで十分、あとは付け足しだって言うけれど、ぼくみたいな読者は、ストーリーのない短編はお手上げだから、連作になってよかった (^^;)

 しかも途中からはもう完全に続き物で、一作一作が短編だなんてとても思えないよお。その上、作者の折り紙が付いてないのだけど一作目より面白くなってしまうところが、「娯楽に堕した」のかもしれない。それならば、ぼくは娯楽に堕して欲しいのだ。

 これは山崎と言う凄腕のやくざの話であり、今までのように擬似家族に甘く、敵には容赦ないバイオレンスを揮う男。常に組織に疎外感を抱きながら、組織の実質上の頂点に立つ変わり者の、やくざの話である。

 バイオレンス描写はこれまでのどの作品よりもどぎつく、人によっては吐き気を催すほどであると思う。そう言うところを読んでいると作者の混じりっけなしのサディズムに嫌悪感を感じてしまうぼくなのであるが、それだけに身内への、無償のやさしさが効いて来ちゃうんである。

 身内にすごくやさしく外の人間に法外に厳しく殺意を抱くような男……というのは妙にいびつな精神を思わせるのだが、そういう常に萬月が向き合って来た主人公をこの小説は、いつになく深く分析し主人公に語らせている。この辺りはストーリーとは関係なく萬月ワールド解説書みたいに読むと面白かったりする。

 いびつな精神は幼児性につながり、母性への異常なほどの欲求が生死の狭間にゆがみ葛藤する……と一行で書いちゃうとこんなことなのだろうが、 そうした世界(←日本だけど)への全反発的なトーンをいつになく感じさせるのは、やくざという反世界的な組織からすべてを見ているからだと思う。

 何しろ作者は一歩進んで右翼組織の資料など集めて、この先の話を構想に入れているらしいから、それなりに反世界的なものと個人の歪みが大々的に衝突する作品がいつの日にか登場してくれるのかもしれない。

 こうした作品世界はぼくはまぎれもなく『凶手』に通じると思う。作品の抑制度などはヴァクスの方が遥かに上回っていると思うが、作者の根底にある書く欲求とこれを満たす素材は驚くほど似通っていると思う。作者が男であり母性への飽くなき欲求と力とを兼ね備えている場合にはこうした「底」が距離を超えて響き合ってしまうものなのかもしれない。

(1994.06.24)