狼の領分  なで肩の狐 II




題名:狼の領分
作者:花村萬月
発行:徳間書店 1994.12.31 初版
価格:\1,500(本体\1,456)

 『なで肩の狐』の続編。前作の終了直後、札幌からそれは始まる。ある意味で前作を引きずっている。けれど、また新しい旅と闘いが、この小説で展開する。前作より倍増した愛と暴力が凄まじい。

 なんと言ってもフィジカルな小説だと思う。性も暴力もフィジカルなんだけど、ほとんどその二つでしか表現することのできない屈折した男たちが出会う時、さらに不条理な火花が散ってしまう。理不尽な死がいくつも必要とされる。理屈に合わない感性を描かせたら花村萬月はぴか一だなと思う。

 木常と蒼の海のコンビは相変わらずでこぼこで楽しいんだが、木常は本作ではとっても無常感に捉われているように見える。流れ者のさがが身についちゃっていて、刹那的で、極端だ。ひさびさに砥ぎ澄まされた主人公の復帰だと思う。

 舞台は北の街から白神山地へ移るが、白神の山窩の末裔たちが今回の主役とも言える。「狼の領分」の意味もこの辺にある。谷甲州の『凍樹の森』を髣髴とさせる山の中の闘いに、度肝を抜く迫力を感じる。大変パワフルなエンターテインメントであることは間違いない。

 こうして花村萬月の作品をぼくはすべて追ってきているんだけど、最近感じるのは、どれも一枚の同じ絵であるような気がすること。繰り返し繰り返し、手を変え品を変えてはいるけれど、常に描いているのは同じ絵に過ぎないのではないかということ。性と暴力。生と死。砥ぎ澄まされたとても感覚的な肉体を持つ、鋭敏な心。それだけに主人公たちが似てきてしまう。はぐれ者たち。

 唯一、蒼の海だけが珍しくふつうの常識人だとも言えるんだけど、それだって2mを越す巨体を持て余すという意味において非常にフィジカルな存在である。そのフィジカルな部分がなければ木常とのコンビネーションは成り立ちそうもない気がするくらいに。

 まあ、そういう意味では新しい作品というのもそろそろ待ち望まれるし、一方では眠り猫シリーズも、木常シリーズも次の話に突入していただきたい気もしている。少なくともこの程度の、佳境に収斂してゆくストーリーが存在して、このくらいストレートな作品の方が、ぼくには楽しく、幻覚的で嬉しいような気がする。

(1994.12.19)