風に舞う




題名:風に舞う
作者:花村萬月
発行:集英社 1994.6.25 初版
価格:\1,400(本体\1,359)




 この作者短編小説は正直言って切れが悪いと常々思っているんだけど、この連作短編集を手に取ってみると、ふと思ったのが連作は悪くないなということ。と思い返してみれば『渋谷ルシファー』は連絡短編集だったのだった。あの作品はそれなりにブルースを主体にした音楽ハードボイルドだった。

 ついこないだ読んだ『笑う山崎』も結果として連作短編集の形式でわりあい、凄味があった。しかしそれ以上にこの『風に舞う』は一篇一篇が、連作としての展開でも、独立した短編小説としても、切れと迫力が感じられた。これもいわゆる音楽青春小説といえば、それまでなのだが、なかなかハードボイルド的な側面も覗かせてくれて面白い。

 連作の方がプロットも生き生きとしているし、この小説や『渋谷ルシファー』でのゴッドブレイスのようにバンド自体がまとまってゆく様が、連作を通して味わえて、その意味でバンド小説=作者言うところのホームドラマに連結している、という構図もありそうである。

 1991-1994 まで『小説すばる』に何度かに渡って掲載された連作。作者が大事に書いている作品は作者が大事にしている楽器のようだ、バンドのようだ。主人公の愛器フェンダー、ストラトキャスター。他の本で作者の写真に一緒に写っているのもそうだし、ぼく自身一個格は落ちるけどフェンダー・ジャパンのストラトを爪弾いたりしている。だからと言って音楽をやる者にだけ楽しめる小説だなどということもありません。

(1994.07.17)
最終更新:2007年05月27日 21:51