猫の息子  眠り猫 II




題名:猫の息子  眠り猫II
作者:花村萬月
発行:徳間ノベルス 1994.3.31 初版
価格:\750(本体\728)




 『眠り猫』の続編というよりも、どちらかというと『真夜中の犬』のリメイクみたいな話で、内容もこれまで作者が再三構築してきた形の踏襲なので、正直言って、そろそろ違うものを読みたいやなあ、というのがぼくの側の気持ちなんだけど、それでもやはり、書き手は書きたいものを書いているときが一番筆が乗っている、という感じの一冊であった。

 萬月作品の悪い癖は、文章その他の小説が巧すぎることで、これものっけから本当に感心するくらい巧い。はっきり言って酔えます。しかし、その乗りがほぼ平板に展開されるために、全体のバランスみたいなものはあまり取れていないことも多いと思う。クライマックスに向けて盛り上がるという姿勢がないし、この作品の場合はまだしもその盛り上がりがある方なんだけど、盛り上げた割りにクライマックス自体がなかったりする。

 まあそれほど自由度の高い作品なのでどうだと言われてどうのこうの言う気はないけど、いつもの萬月ワールドのエッセンスは十分にこもった作品。ぼくとしては『真夜中の犬』や『眠り猫』の方がストーリー展開の粘度という意味で、少し高い。

 本書での構成は、父・子・母(あるいは女)という三人の家族が二つ、鏡のように向き合っているもの。途中バランスが崩れかかり、それが終局に向くのだけど、なんだか実は最後は収まるところに収まっちゃうので、バランスよくきれいに片付いちゃう。やはり物語というのはバランスが崩れたところに起きる摩擦熱のようなものを楽しみたいので、本書はその点 SPOONFUL さんに同じく物足りない。

 実に巧い作家の実に迫力のある実にもったいない作品であった気がする。

(1994.05.17)
最終更新:2007年05月27日 21:48