わたしの鎖骨




題名:わたしの鎖骨
作者:花村萬月
発行:毎日新聞社 1994.3.25 初版
価格:\1,400(本体\1,359)



 短編はあまり構想を練って書いていないんじゃないかなあ、と思われるのが萬月短編集で、前回の短編集『ヘビーゲージ』でもぼくはそう言ったような気がする。なので三作の短編はまあ読むこたあないと皆さんに言ってしまう。

 満月の長編もそうなんだけど、萬月さんの小説って情景描写に流されると、会話とか性描写とかで延々流されるところが多いよね。それはそれで構わないんだけど、構成によってはこういう点が長所にも短所にも変わってしまう。ぼくは『ブルース』ではこれは成功していると思うけれど、最近の作品『月の光』『永遠の島』などでは何だかストーリーとかプロットからの逃避のように思えて、何だか物足りないのである。

 長編ならまだそれでもプロットに戻る余地がある。しかし短編ともなると流されたらそれで終わり。話がそれたらそれっぱなしで、なんとなくすっきりしないうちに終わっちまう。こういうのってぼくは『白樺派』みたいでつまらないです。エンターテインメントの土俵で相撲を取っているなら、せめて短編なりの趣向を凝らしてくれなくては。

 純文学的といういみでは高村薫もよくそう言われるけれど、彼女の短編はとっても味があってこの辺、満月短編とは全然違う気がする。もっとも萬月さんはハードボイルドを書いているんじゃなくて愛のホームドラマを書いているのだろうから、あんまり読者は追求できないのかもしれないけれど、わがままかもしれないけどやはり寂しい限り。

 しかし中編の中で興味深い書き下ろしがあるので、萬月ファンは、これだけはお見逃しのないように。『眠り猫』と『なで肩の狐』が合体しています。前者は猫本人が、後者は狐ではなく蒼の海が久しぶりに登場している。同じ時期に『猫の息子』が出ているんだけど、こういうところで作者がハードボイルド作品の人気キャラクターたちにこだわってくれている点が、ぼくには唯一嬉しいのである。別にシリーズにならなくてもいいけど、こうした娯楽的な側面の方が期待されている作家だと思うぞ、花村萬月は。

(1994.06.24)
最終更新:2007年05月27日 21:43