駿女





題名:駿女
作者:佐々木 譲
発行:中央公論社 2005.11.25 初版
価格:\1,900




 北海道を舞台に馬に乗って現れては虐政に苦しむ農民を助け、颯爽と去ってゆく黒頭巾の活躍を描いた『黒頭巾旋風録』を描いたそのペンが、今度はみちのくを舞台に、義経ご落胤伝説を描いてくれた。

 『五稜郭残党伝』『北辰群盗録』に始まった佐々木譲の武勇小説系譜に関しては、そもそも太平洋戦争三部作まで遡るのかもしれない。零戦をヨーロッパまで飛ばそうという闇雲だがこれ以上ないほどロマンチックな小説『ベルリン飛行指令』などは、そもそも佐々木譲ならではの世界であるのかもしれない。

 本書は、東北地方に流れる義経ご落胤伝説を材に、佐々木譲が途方もないロマンを描いたもの。義経を姦計で討たれた一党が、ご落胤を旗印に鎌倉・源頼朝を討つストーリーである。本書の主人公はご落胤であった八郎太と姉弟のように育った牧場の娘・由衣。

 馬と弓とを男以上に操り、頼朝の東北討伐を生き残り、そして最後に……

 大地と原野を舞台に馬を駆らせ、弓を射る。そうした大きな夢は、現代人のぼくらが忘れかけている何か途方もない憧憬を、夢の裏側に呼び起こす。それだけで彼のこの手の小説を手に取りたくなる。

 だが佐々木譲の小説は、甘くはない。いつでも時代や政治の容赦ない暴力装置が、純粋な夢を砕き、呆気なく大切なものたちの命を葬ってゆく。いともたやすく、これ異常ないほどに残虐に。甘い幻想で読んでゆける本ではない。過ぎ去った歴史という確かな記録への逸脱はせずに、残酷を残酷のまま生かし、その中でロマンを築いてゆくその手腕が、常にぼくを際限なくこの種の物語に引き込んでゆく。

 読者は、この本によって、教科書には描かれていない歴史の過酷な真実を目の当たりにさせられるだろう。サムライという精神の要が出来上がる途上としての人間の強さも弱さも飲み込まざるを得ないだろう。辛口極まりない世界のさなかを、一人の少女が駆け抜ける。

 タイトルは、作者の凝りに凝った仕掛けを表現している。最後の最後まで駿馬であり駿女である由衣の、ひたすら疾風の姿勢態度に、胸のすくような爽やかさを期待していただきたい。

(2006/02/05)