でぶのオリーの原稿



題名:でぶのオリーの原稿
原題:Fat Ollie's Book (2002)
作者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:山本 博
発行:ハヤカワ・ミステリ 2003.11.15 初版
価格:\1,200




 少し前の作品ではピアノを練習していたシリーズのサブ・メンバー、88分署刑事のオリー・ウィークス。今度は彼が小説を書き上げた。内容はやはり捜査小説。何と主人公は女性刑事。次期市長を狙う有力候補が銃撃された現場に駆けつけた先で、オリーはその原稿を鞄ごと盗まれてしまう。大きな事件と小さな事件。オリーは二つの捜査に同時に乗り出す。もちろんレギュラー・メンバーである87分署刑事たちの協力を得て……。

 原稿は劇中劇のかたちで二つめの物語をなしてゆく。原稿を盗んだものは実際の報告書と勘違いして、この世の現実の事件現場に吸い寄せられてゆく。そこには捜査官たちとギャングたちのクロスファイアが待っている。何とも味わいのある構図の作品である。

 シリーズ読みとしては、本作ではアイリーン・バークの87分署復帰が嬉しい。バート・クリングとのラブソングは遠い過去に置き去りにされてしまっている。クリングは今や新しい恋の相手と新しい愛の物語を編纂しつつある。バークとアンディ・パーカーとの新たな異色のコンビネーション。キャレラはと言えば、テディの未来を見つけようと奔走する。捜査とその裏側の日常生活。スーパーマンではなく庶民である刑事たちの群像。まさにこれが、87分署シリーズだ。

 何と言ってもシリーズ52作。今年でちょうど47年目。ハヤカワのポケミスがちょうど今年は50周年を高らかに謳っていた。どちらもある意味偉業である。大きなメインストリートをゆく商売ではなく、かつては虐げられていた状態に近いミステリ、ハードボイルド、クライム、そして本シリーズのような警察捜査小説。あちらではぺ-パーバックであり、パルプでもあった。紙屑のような商品価値に小説の面白さという息を吹き込んできた作家、出版社、そして一握りの根強い読者たち。

 端っこを歩くちっぽけな文化であったものが、何となく半世紀。エド・マクベインはこの小説のラストで、自分の作品を初期の頃からずっと取り上げ続けてきたハヤカワのポケミスのシリーズに謝辞を贈っている。こいつが、けっこう、ぐっと来る。

(2003.12.28)