ビッグ・バッド・シティ




題名:ビッグ・バッド・シティ
原題:The Big Bad City (1999)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:山本博
発行:ハヤカワ・ミステリ 2000.7.31初版
価格:\1,100

 キャレラがこの十月で四十歳になるんだそうだ。<87分署>レギュラーの年齢について作中で言及されるのはいったいいつ以来だろう。1956年にこのシリーズが始まってこの方、アイソラという巨大都市はビッグ・バッド・シティであり続けてきたと思う。ぼくの記憶による限り。優しく愛のある街であったためしはないと思う。汚濁と猥雑の街であったと思う。その点に関しては刑事たちの相手はいまも全く変わっていない。

 同僚のブラウン刑事を相手にキャレラが自宅で「四十歳になるんだよ」とウイスキー・グラスを傾けるシーンがある。あれこれと過去の事件を回想するシーンである。シリーズ読者には白眉のとき。思わず胸が熱くなる。ずいぶんと長いこと、ずいぶん遠くまで彼らといっしょに歩いてきたものだ。そう思うと、自分の時間とキャレラたちの時間が少なからず重なり合う部分があるはずだ。実人生と架空の街アイソラの接点。あまりにも多くの。

 シリーズ読者の大半が遠くを見る目で、あるいは自分の心の底に沈潜するような思いで、この本を読み終えたに違いない。

(2000.11.04)
最終更新:2007年05月27日 17:04