ロマンス





題名:ロマンス
原題:Romance (1995)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:井上一夫
発行:ハヤカワ・ミステリ 1998.1.15 初版
価格:\1,200

 87分署の恋愛シーンを一手に受け持つバート・クリング。彼がまた新たな恋をしながら、キャレラと組んで「ロマンス」という芝居に望もうとしている劇団内の殺人事件を追跡するというストーリー。

 ここのところ現代的で陰惨で乾いた方向に傾斜しがちなシリーズだった。前回のデフマンにしても少し非情さが出てきて、かつてのゆとりのあるゲーム性みたいな部分が少し影をひそめているように見えた。<87分署>が時代を反映する警察捜査小説である以上、カルト教団や陰惨な犯罪者が作品の前面に出たとしてもそれは仕方のないことなのだが、そうした救いのない時代にあっても、<87分署>の面々は実にマイペースに、実に日常的に、それらの暴力をさばいているのである。

 そういう意味では、本書は少しばかり息をつくことができる。いつものような凶悪な犯罪のイメージが薄れていて、フーダニットの本格推理小説のようでるあある。ひさびさに見せる初期の頃のような軽妙なタッチで、肩の凝らぬストーリーを紡いでいる。この作品はある意味で最近の読者には物足りないかもしれないが、シリーズは、実はこういうメリハリで永く続いてきたのだと、ぼくは思う。

 軽妙洒脱な会話を交えた捜査。刑事たちの日常と、そうでない暴力的な世界。恋を描かせたら天下一品のロマンティシズム。その音楽的とも言えるほどのリズミカルな盛り上がり。昔々のクレアとの恋のシーンなどを思い出させる。バートが恋に引き込まれて行く様子は、そう、マクベインならではのものである。

 犯罪捜査そのものは正直古臭くてつまらなかった。最近エルロイ作品などに慣れた目には、うそ臭いほどに平和な町アイソラ。同じ人種差別、同じ暴力を描写しつつもこうもタッチが違うのか。ぼくはその両極に揺れるほどの大きな振幅を、アメリカ警察小説という小さな枠の中で楽しんでいることになる。

(1998.03.03)