凍った街


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題名:凍った街
原題:Ice (1983)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:井上一夫
発行:ハヤカワ・ミステリ 1989.01.31 初版

 さて<87分署>シリーズもようやく文庫を読破し、いよいよハヤカワ・ポケミスに突入。1983年作品。内容は大変地味である。つながりの見出せない三個の死体に関わる刑事は今回は四人。キャレラ&マイヤー、クリング&ブラウンだ。前作で地獄を見たクリングの心理描写や行動が気にかかる。それと同時に囮捜査のときに決まって呼び出される女刑事アイリーン・バークが、今まで以上にフューチャーされているのが意味ありげの一冊だ。

 季節は冬。しばらくのあいだ秋の作品が続いていたかと思うと、初期のころのように夏と冬との繰り返しに戻ってきたこの頃の作品。シリーズものであっても、ここまで季節感の横溢した作品群は珍しいのではないだろうか。アイソラは毎年決まって酷暑と酷寒に襲われる素晴らしく季節差のある街だ。なにしろ『熱波』に続く『凍った街』。原題も"Heat"に継ぐ"Ice"。これは比喩でもなんでもない。まさしくアイソラを順繰りに訪れる気性の荒い天候をタイトルにしただけにすぎないようである。

 そして本書の長さたるや、どうだろうか。ポケミス版ニ段で330頁。値段はハードカバー並み。ところが昔のような美文調、軽妙洒脱なリリシズムは、とんと見当たらない。徹底して冷徹な殺しのシーンとリアルな会話。刑事たちの心理。そして動き。現場風景へのなんの感情移入もない微細な描写。そう。文体はますます硬質になってきている。徹底したディテール描写と、ほとんど何も書かないことによって逆に多くのことを表わそうとする心理描写とが、交互に織られる。特に心理描写については、初期のころに較べると、何倍もの進歩が見られるように思う。何歩もハードボイルドの方向に近づいてきた感がある。

 最後の最後まで連続してゆく冷たいバイオレンス・シーンが、この本をまさに題名通りに凍りつかせている。まさしく1980年代に突入したという空気が漲っているのだ。

(1990.11.15)