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幽霊



題名:幽霊
原題:Ghosts (1980)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:井上一夫
発行:ハヤカワ文庫HM 1990.09.15 1刷
価格:\480

 さて、<87分署>シリーズもようやく1980年代に突入した。そして本書ではいかにも時代に即したというべき新しい題材が選ばれている。その名はタイトルが示す通り幽霊話である。映画『エクソシスト』以来のオカルト・ブームがアイソラの街にも到来したように見える。そう。本篇はまさに超自然現象を主題にしている。

 キャレラに協力する霊媒のヒラリー・スコットは、まるでこの作品のヒロインであるかのごとく証拠物件に触れてさまざまな暗示を受ける。キャレラは彼女の超自然的な霊能力によって得られるそれらのイメージを指針としてマサチューセッツにまで飛んでゆく。そこで彼らを待ち受けたものは果たして幽霊屋敷であり、三年前にある女性が溺死した海岸であった。ちなみに溺死の想像部分では、映画『ジョーズ』について少しばかり触れられていたりする。そう。スティーヴン・スピルバーグは既にこの時代には有名監督として刑事たちにまで知られているのだ。

 雪嵐渦まく海辺の寒村。事件から遠く離れた空気のなかでキャレラを待ちうける異常体験を、ぼくらはどう読むべきなのだろうか。シリーズの一方の売りでさえあった科学的な捜査法がこの作品ではあまり役に立っていないという事実を、ぼくらはどう受け止めればよいのだろうか?

幽霊屋敷でのキャレラの体験は確かに怖いし、面白い。しかしそこにはどことなしに、<87分署>ではない別の何かを読まされているという気になってくる。本シリーズの際だった特徴のひとつとして、緻密でリアルで客観的な捜査法に基づいた冷静な叙述ということが挙げられるはずである。それを楽しんできた読者は多いに違いない。読み終えて、ふと気づくと、少しばかり面食らって当惑している自分がそこにいる。

(1990.11.04)