死者の夢


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題名:死者の夢
原題:Long Time No See (1977)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:井上一夫
発行:ハヤカワ文庫HM 1980.03.31 1刷

 本の背表紙だけを見ていると、このシリーズはどうやら本作あたりから一作あたりのページ数が増えるらしく、眼に見えて厚くなっている。しかもこれまでページあたり18行だった文字がこの本では20行に増している。字が詰まっているのが瞭然とわかる。読み始めてもその印象は変わらない。描写がやはり緻密になっているのである。その分、ここのところ軽妙洒脱といわれる文体は影を潜め、その代わりに全体に重みが加わってきている。小説が全体に厚みを増し、物語の微細な描写が増えてきた時代。一般的な傾向であるとも言える。<87分署>のように永く続くシリーズは、こうした出版状況をも反映してゆくのだろう。

 本書ではマイヤー刑事はTVのコジャック刑事と比べられ(確かに丸禿刑事ということではマイヤーの方がはるかに先輩である)、キャレラはコロンボ刑事と比較される。時代はもうこういうところまできてしまった。

 そう。時代はもうここまできた。なんと本作品で扱われるのはベトナム・シンドロームである。精神を病んだ盲目の黒人の死者は、かつてベトナムで何を見たのか。かつて第二次大戦に兵士として駆り出されたことのあるキャレラやホースは、既にひと時代前の古い刑事たちになってしまったに違いない。ベトナムはその傷口を開いて見せはするのだが、それも大声を挙げての糾弾のリズムではなく、しっとりと深まり、街が寒波にとらわれ始める11月。秋とともに、深い重低音を奏でてみせている。

 死者が残した盲導犬は誰の餌をも受けつけようとはせず、刑事たちはその犬を邪魔に思う。しかし主を失って厭われるその犬の姿は、賞賛よりもむしろ犯罪者のように見られるベトナム帰還兵と同様に、なんとも悲しい。犬は飼い主と同じような扱いを受けているのかもしれない。

 終盤にキャレラが与えるパンを犬が平らげてしまうシーンがあった。ぼくにはとても印象的であった。特に好きでもないはずの犬をキャレラはどうすることもできずに、ひとり困り果てていた。そんな姿が実にキャレラという刑事をうまく言い表わしているようで、ぼくの心に深く染みたのだ。

(1990.10.29)