夜と昼



題名:夜と昼
原題:Hail,Hail,the Gang's All Here! (1971)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:井上一夫
発行:ハヤカワ文庫HM 1980.05.15 1刷

 少しよそ見をしている間に、秋になってしまった。冬に読み始め、秋までになんとかと思っていた<87分署>シリーズもまだまだ未読が残っている。十月末から十一月初旬にかけて、作者のエド・マクベインが来日する。ぼくは何とか彼に会いにいくつもりだが、それまでに何冊読み了えておけるものだろうか。

 さて本書は、シリーズの総集編みたいなものだ。出演刑事のオールスター夜昼対抗捜査合戦といったところか。第一部「ナイト・シェイド」と第二部「デイ・ウォッチ」の二部構成になったおり、まるまる二十四時間の間に起こるいくつもの事件と、これを捜査し解決してゆく何人もの刑事たちの個性ある物語のタペストリーである。

 本来本書で起こるドラマはその一つ一つが短編小説を構成してもよさそうな切れ味を持っているのだが、これを錯綜する時間と、関わり合うキャラクターの多様さを道具立てにしてうまく配置し、クロスさせ、視点を変えてゆき、見るものをまったく飽きさせることがない。むしろ不思議なリズム感を伴った形に仕上げているところは、やはりさすがと言うしかないのである。

 <87分署>シリーズ自体が、手を変え品を変えてのいろいろな形式で作品を生成してはいるのだが、こうして全体を俯瞰する視点で眺めてみる一冊を読んでみると、なんといってもこのシリーズの最大の魅力が刑事たちの地味ながらも豊かな個性であり、また彼らに対する作者と読者の一体になってしまった情愛みたいなものがそこに流れていることを感じざるを得ない。

 1971年。 世の中は長髪ブームで、 ぼくはそのころニール・ヤングの『ハーベスト』というアルバムに出くわしていた。ぼくと同じ年ごろの若者が、ぼくと同じような風体でこの本にはちゃんと出現している。

(1990.10.13)
最終更新:2007年05月27日 13:24