警官(さつ)



題名:警官(さつ)
原題:Fuzz (1968)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:井上一夫
発行:ハヤカワ文庫HM 1980.04.30 1刷

 警察のシリーズものを複数の作品において生き残ってゆく犯罪者、逃げ延びていく敵手というのが、本書における重要なテーマである。『電話魔』で海に飛び込んで生死がわからなくなったあの犯罪者がアイソラに帰ってきた。こういう設定が嫌いだという人もいるのだろうが、ぼくは好きである。大好きだといってかまわない。

 『電話魔』の事件は、<87分署>シリーズでは最もスケールの大きい事件だった。もっとも、これはぼくの読んできた範囲内においてである。この犯罪者は順列組合わせの数式を解くように、知的な犯罪計画を楽しんでゆくタイプである。そういう意味では警察そのものをなめきっているようであるし、犯罪自体が警察への挑戦的であり、犯罪者にとっての生き甲斐というまでをも含んでいるように思われる。本書では、その点ですっかり標的となってしまった観のある<87分署>に対し、この同じ犯罪者がふたたび挑戦してくる。わくわくするような一冊である。

 キャレラは、最近すっかり受難続きだ。病院の世話にばかりなっている。昔は年中殴られてばかりいたコットン・ホースが最近では逆に地味なベテラン刑事になってしまった。キャッスルビュウ刑務所の件はどうなってしまったのだろう。数年先に関わることになると予告された一文はどうなってしまったのだろう。あれは遠い昔の書き損じというわけなのだろうか? そういうわけにはゆくまい。そういうことをいつまでもねちねちと覚えている読者だっているのだ。

 本書は前作から二年ぶりとなる。作品のペースが落ちたのはどういうわけだろう。多分作品が増え、売れ行きが安定し、そんなに無理をして書く必要がなくなったのだろう。このシリーズが始まったばかりのようにきっと一年に三作も書かなくても十分に生活は潤ったのだ。アイデアの貯蓄分もだいぶ使ってきただろう。それでもなおかつ読者はいる。シリーズだってまだまだ続くだろう。ぼくだって、まだまだ読むさ。

(1990.08.01)