灰色のためらい


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題名:灰色のためらい
原題:He Who Hesitates (1965)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:高橋泰邦
発行:ハヤカワ文庫HM 1980.04.15 1刷

 シリーズ中、最も短い長編作品である。そして異色中の異色。シリーズの外伝と言ってしまえないこともない。まず本を開く。『空白の時』のような中篇集でもないのに、登場人物の紹介欄がどこにもない。そこで読者のぼくは眉をひそめる。

 読み始める。死体も刑事部屋も出てこない。冬の寒い一日。アパートで男が目覚める。田舎から木工品を売りに都会へ出てきた男。がっしりした体躯。憂欝な表情。優しい男だ。刑事が登場するといういつものようすもない。<87分署>風『真夜中のカウボーイ』が始まる。

「警察へ行かなくちゃ」そう思いながらも、ためらい、彷徨う一日。彷徨いながらも街のさまざまな人々の情愛に触れ、男のため息は一月の灰色の空へと、凍ったまま吐き出されて消えてゆく。

 時には彼を利用しようというワルだって出てくる。刑事にだって行き当たる。悪党刑事パーカーと話をする。キャレラ夫妻がレストランで昼食をとる様子を盗み見たりもする。それでも刑事たちは、彼の目の前を通り過ぎてゆく風景の一部みたいなものでしかない。

 ついに刑事部屋が出てくることもないまま、男の一日が終わり、ぼくはこの本を閉じる。<87分署>をある男の視点から描いた佳品。冬の寂しい都会の描写があまりに秀逸であった。

(1990.07.21)