苦い娘(『ピリオド』改題)




原題:ピリオド
作者:打海文三
発行:幻冬舎 1997.10.9 初版
価格:\1,500

 打海文三の探偵たちというのは、言わばあの有名な『必殺』シリーズの仕置人たちみたいなイメージがある。最初から普通の民間人とは言えない部分があって、生きる世界は裏稼業に精通していて、命のやりとりを日常的に行うのが当たり前。この稼業のルールは「裏切られた方が悪い」のであって、「殺された方が悪い」のだそうである。

はなっからそのような異質な世界を描こうという姿勢をこの作家は貫いているのであって、決して万人に共通する日常的な共感をテーマなどにはしていない。だからこそ海外小説のジャンルに近い、われわれ日常人との距離感が読書的つかみどころとなっている、この人は日本では希有な作家なのである。

 いわゆる小市民文化にあまねくおもねってゆく傾向の強い国産ミステリーの脆弱さを切り裂くような鋭利さと、その凶暴性がこの作家の特徴であり、ぼくの好きな点である。

本書は、同じく近い傾向で書いていると思える東直己『フリージア』を思わせるような主人公。プロが山から街におりてきて現場復帰するという物語である。そして街には多くのプロフェッショナルな同業者たち。金のためなら殺しをも厭わないアジアン・マフィアたち。そして餓えて狂って狂暴な悪の王の存在。

ある意味劇画的なまでの誇張があるにも関わらず、それを大人の表現で書いてしまう空気の緊張の度合は、打海文三特有の筆致を支えるなにものかであると思う。モノトーンの陰影濃く、人間の欲望の底に眠るどろりとした説明のつかない感情を描かせて活劇に徹するこの作風が後の『ハルビン・カフェ』に繋がる地平であることは間違いない。

『時には懺悔を』ほどに座りのいい万人むけの感動作ではなく、少し娯楽性の走った嫌いのある、軽めのアクションでありながら、打海的暗黒世界に片足を踏み出している作品として記憶にとどめておきたいこれは路程標であろう。