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被害者の顔


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題名:被害者の顔
原題:Killer's Choice (1958)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:加島祥造
発行:ハヤカワ文庫HM 1978.9.30 1刷

 はっきりいって<87分署>中毒である。

 むかし『幻魔大戦』中毒というものにかかったことがあるが、あれは自分にとって非常にあと味の悪い、悔恨多きものであったし、今でも平井和正と聞くと詐欺師の代名詞のようにしか思えないぼくである(ファンの方にはごめんなさい)。そのころに較べると、87分署中毒というのは実に爽快で、醍醐味のある中毒なのである。一作読んでしまった瞬間からもう全部読まずにいられない衝動に駆られてならないのだ。そういう読者をまたシリーズが決して裏切らない。そういう読者と作者の信頼関係といった点こそ、シリーズ作品の持ち味であり、それはとても重要なことに思える。

 本書では、馴染みはじめた刑事の一人が、意外なところであっけなく殺される。それも本筋とは全然関係のない場所で殺される。新任の刑事がひとり赴任する。本筋とは関係のないところで彼は失策を犯し、本筋とは関係のないところで彼は犯人を追いつめる。そういう本筋とは関係のない周囲のドタバタとした状況のさなかで、ある殺人が幕を開け、複数の容疑者を抱え込んでゆく。複数のアリバイ・複数の動機を抱え込んでゆく。そしてやがて本筋は徐々に閉じてゆく。

 こうしてみると、やはりこれはシリーズもの特有の匂いがあるのだ。もしこれが一回きりの単発ものだったら非常に散漫で気の散る作品なのかもしれない。しかしシリーズを通して読んでいるぼくには、そういう複眼性が気にならないばかりか、むしろ効果的でさえある。むしろ冷たいまでのリアリズム。街全体を流れる独特の自律した時間をも感じさせるほどなのだ。こうして一人歩きしてゆく街を、分署を、ぼくらはシミュレートしている。このシリーズを通して。

 さて次の『殺しの報酬』はまだ手にはいらない。その間、87分署とも、アイソラの街なみとも少しの間、お別れなのである。

(1990.04.04)