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国家と犯罪



題名:国家と犯罪
作者:船戸与一
発行:小学館 1997.5.7 初版 1997.6.10 2刷
価格:\1,800

 これは優れたルポルタージュである。世界を股に駆けるジャーナリストではない船戸与一なのに、これはそこらの有名なジャーナリスト顔負けのルポだと思う。作家はあまり表現してはいないけれど、けっこう命をかけた辺境の旅……という気配がしてならない。

 もう一つの楽しみは、作品の背景の取材旅行を兼ねていること。まあ普通の作家の取材旅行というより、かなりその取材自体にのめりこんでいる船戸の、被征服民族観がきっちりと表われているのだが。

 本書で取り上げられているのは、キューバ、メキシコ、中国、中東、南イタリア。一見平面でしかない国での分類が以上である。しかし、さらに効果的な分類をすると、キューバ共産主義、メキシコ民族革命、中国共産主義、中国内の異種民族たちおよび回教徒たち、マフィア……。

 これだけで世界の辺境を歩く船戸の足跡、そこから陽炎のように揺らめき出てくる船戸作品たちへ、自然に繋がってゆくこちらの視界。とりわけ最近作『午後の行商人』『流沙の塔』は、このルポ本ととても深く繋がっているので、それら作品の読者には、作品の奥行きを広げて味わうためにもぜひともオススメしておきたい。

 これを読んでいるうちに『流沙の塔』が出たのだが、まさにこれから船戸が書きそうだと思っていた土地、民族の物語であったため、一年前の本でありながら、非常に自分にとってタイムリーと感じられた。難しい評論ではなく、船戸世界の奥の現実を旅する本であり、思いのほか辺境の物語に深く興味を覚えてしまう。世界はまだまだ冒険小説のエッセンスに満ち満ちており、血の葛藤がいろいろなものを引き裂いているということが、よくわかってくる。そしてあくまで船戸与一という作家の視点であることが、何より嬉しい一冊であるとぼくは思う。

(1998.06.18)