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されど修羅ゆく君は




作者:打海文三
発行:徳間書店 1996.05.31 初版
価格:\1,600

 最新作『愛と悔恨のカーニバル』
では十八歳のヒロインである姫子がまだ十三歳だったときの物語であり、『時には懺悔を』に続く探偵社アーバン・リサーチのシリーズ続編。シリーズと言っても毎作ごとに主役が変わってゆく独立編でありながら、作者がよほどお気に入りであるのだろう、必ず登場する人物である六十歳の不良老女・鈴木ウネ子と姫子との年の差コンビの絡みが、この作品の味わい。

例によって事件は事件として描かれつつも、作品の核にあるのは人と人との出逢いや別れ、錯綜して迷いゆく愛情の行方とその混沌。あくまで個性的な人物たちとそのそれぞれの人生を蔑ろにはしない作者の丁寧な視線だ。

あまり多作家ではないようで、時間と労力と準備をたっぷり使って仕上げて一作を仕上げるという古い職人タイプの作家だろう。老女から中学生の少女までの心の描写をみごとに活写してのける腕前も確かなら、謎を謎のままに人間たちの行方知れぬ動きのさなかで沸点に持ってゆく書きっぷりも独特な味わいがあって、鋭い。

こうした良心的な作風と何よりも優れたセンスを武器にして、一方では現実に起こった社会的な事件を材料に煮詰めてゆくことで、読者に現実世界との往来をさせる。花の種をもとに犯罪の真相を割り出してゆく過程は推理小説の読者にも受けるのかもしれないが、それ以上に次第に明らかになってゆく森林生活者の正体と、彼による事件の急激な展開、また彼のナーバスさ、過去の悔恨……といったところが本作品の背骨であると言える。

最後まで頑固者が沢山出てくる。否、むしろ頑固者しか出てこないシリーズなのかもしれない。作者の頑固さが伺えると同時に、頑固者がこういう作品を好むのかもしれない、とふと思ったりした。