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夢は荒れ地を



題名:夢は荒れ地を
作者:船戸与一
発行:文芸春秋 2003.06.15 初版
価格:\1,905

 船戸版『地獄の黙示録』カンボジア・バージョン。かつての『キリング・フィールド』は全く清算を済ませていなかった。梁石日の書いた『闇の子どもたち』が、アジアの幼児売買の実体だとすれば、その構造悪に迫って、そこに戦いの芽を産みつけるような物語を切り拓くのが船戸の方法だ。梁石日には梁石日の凄味があり、船戸には船戸のロマン溢れるスケール感に満ちた世界がある。

 ここ最近の本のなかでも圧倒的な分厚さを誇るこの一冊。カンボジアの今と、地雷の上に生きる国民、そして国際ボランティアたちのその後。すべてが今の時代では少し報道素材としては古臭いものであるだけに、船戸はその影の部分にいっそう厳格な視線を注いでゆく。<カンボジア2001年乾季>という一ページに始まるこの時代、この国だからこそ生まれる夢と挫折。

 圧倒的な貧しさが生み出す地鳴りのような反骨の狼煙と、それを断ち切る裏切りのやりきれなさ。アジアの大地に戦場を求めて、日本に過去の全てを置き去りにしていった男と、彼を追う休暇中の自衛隊のなかで、価値観が傾斜してゆくカンボジアの陽炎のような熱気。三人称で書かれた三つの物語が錯綜し、交錯するとき、すべてがクロスファイアに変わってゆく。

 惜しげもないアクション。多くの登場人物たちの愛憎のぶつかり合い。いつも変わらぬ船戸節が屍の大地に踊り、ぼくらは男たちの夢と血にまみれながら、カンボジアの今に触れる。迫力という意味において他に一歩も譲ることのない船戸の世界が敢然としてここにある。

(2003.12.07)