三都物語




題名:三都物語
作者:船戸与一
発行:新潮社 2003.09.25 初版
価格:\1,800

 船戸にしては珍しい連作中編集。台中を舞台にした一作、光州を舞台にした一作を、横浜の三作品でそれぞれサンドイッチした作品で、時代の流れは1998-2002年に渡る。ちょうど先日読んだ重松清『さつき断景』が1995-2000年の短編集構成だったため、ダブる部分があり、どちらも時代感覚に溢れており、平成のクロニクルのようにその時代背景を読み解く楽しみを味わうことができる。

 船戸が日本を舞台に小説を描くというのはそうありふれたことではなく、それなりに読者としても身構えのようなものを意識せざるを得ない。国際情勢の中での日本の動き、その中で船戸的キャラクターをどう配置することができるのかというような興味、多くのものが日頃辺境ばかりを旅している船戸的世界から、急に自分らの身近なところに迫る緊張感というようなものが、読前より脳内に張り詰めてゆくのを感じるのだ。

 本書は、三つの都市を舞台に、三つの国のプロ野球界を中心としたドラマで描きながら、その背景に、それぞれの国の抱える暗黒の部分をとりわけ浮き立たせる。プロ野球はプロであるが故に純粋なスポーツばかりではない経済戦争の一面を持っており、それゆえにどろどろとした人間の水面下の闘いが、夜ごとのゲームの裏側で選手たちの人生に影を落としてゆく。

 野球そのものにとりわけ興味のないぼくのような読者であっても、野球のスポーツ性以上に時代性や国際性に蠢く魑魅魍魎のけものみちを描いているようで、この本は実に興味深くその世界に入り込んで、深く切り分けてゆくことができる。とりわけ台湾と韓国の取材努力が滲み出てくるあたり、戦前戦後の時代を引きずる今への緊迫が凄まじい。呪詛と悲哀が現代にまで垂れ込める風景を目の当たりにする思い。

 現代日本の家族の風景を、まるで馳星周や重松清のように腑分けしてゆく船戸の筆というのも、珍しいところ。要するに、日ごろの船戸の世界とはアプローチを変えている、という意味で、異なる断層を見つめたい船戸読者の好奇心を存分に満たしてくれる秀逸な一冊なのである。

(2004.02.15)