やがて哀しき外国語



題名:やがて哀しき外国語
作者:村上春樹
発行:講談社 1994.2.25 初版
価格:\1,400(本体各\1,359)

 村上春樹はエッセイが面白い。小説とエッセイとの間に妙に繋がりがないところも不自然でいい。ただこのエッセイによると、最初にアメリカで書いていた長い小説が二つに枝分かれしてしまい、一つは『国境の南 太陽の西』へもう一つは『ねじまき鳥クロニクル』になったという日本神話みたいな創世の話が、興味深くもあったりした。

 そのプリンストン滞在中の創作期に雑誌『本』に連載されたエッセイに加筆したものがこの本。創作とは全く繋がりがないところがいい、と書いたけれども、この作家が全く自分を語っていないわけではないのだ。この人はいろいろな考え方、感じ方、ライフスタイルなどをエッセイで十分に語っている。ただそのことと創作の世界とは全く別物だということをぼくは言いたいだけであった。

 それでいながらどういう人がああいう物語を書くのであろうという興味は尽きない。だから、ぼくはこの人のエッセイにも果敢に取り組み続けてきたものだ。そしてエッセイにしては大変面白いのが村上春樹という人の文章である。

 この人は文章にしながらものを考えるというのだが、思えばパソコン通信というものも、案外そういう種類の人たちで成り立っているものなのではないだろうか、などと思ってみたりもしたのだった。

(1994.12.04)
最終更新:2007年05月27日 01:39