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国境の南、太陽の西



題名:国境の南、太陽の西
著者:村上春樹
発行:講談社 1992.10.12 初版
価格:\1,500(本体\1,456)

 村上春樹は、ぼくは幻想小説とか恐怖小説の味わいが好きなのだけど、『ノルウェイの森』やこの作品はどちらかというと恋愛小説に死の味付けをして存在の基盤の危うさとか生の不安定さとかを、不健康に描き出しているタイプの小説みたいに思える。村上春樹の書く主人公はたいてい健康的にジョギングをやったり早寝早起きをしたり安定したリズムできちんと律された日常を送ることが多いようだけど、本書の主人公も金太郎飴のようにいつもの主人公<僕>なのである。そしてジョギング代わりに水泳をやったりするみたいだし相変わらず酒場も経営している。

 ぼくの好みの傾向だけを言えばこの種の作品よりも『ダンス・ダンス・ダンス』や『羊をめぐる冒険』の方がずっと気軽に読めていい。気軽に読めればいいってもんじゃないけれど、あの叙情を打ち捨ててどちらかと言えば抽象的な虚無や実存の解説的世界を、諸々の人物との会話で成り立たせているようなこの作品や『ノルウェイの森』はどうも苦手だ。作者の暗いほうの側面ばかりが目立ってしまっている気がする。

 この作者にぼくが変わらず求めているのは文体の素晴らしい深さであり、明晰さである。純文学にしては読みやすいその作風とか、日常にごろごろしている恐怖を取り上げて見せてくれている点もこの作家特有のセンスであり才能であると思う。愛や性が種の保存本能に繋がり、それと対になって死とか虚無とかがいつもぽっかり口を開けているのがまあぼくらの日常生活の背景であるとするならば、それをここまで意識的に書いていこうというこれら作品はぼくらにとってなんなのだろう?

 多くの女性読者を獲得しているらしいこの作家の作品は決して快い小説であるとは思わないし、むしろぼくは恐怖を感じることが多い。それはあまりにも表現されていることが多いせいもあると思う。とにかくもともと純文学であることを意識させないで楽しませてくれる作家なのだが、今回はちょっとその方面で不足であった。 『ノルウェイの森』に続いてこんなに売れてはいけない本だと思う(^^;) だけど タイトルやその由来はなかなかぼくの好きな感覚であったぞ。

(1992.11.22)