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ダーティ・サリー




原題:Dirty Sally (2004)
作者:マイケル・サイモン Michael Simon
訳者:三川基好
発行:文春文庫 2006.08.10 初版
価格:\857

 不覚だった。『このミス』の投票前に読んでおけば、間違いなく今年の三本指には入れていた。エルロイとロバート・B・パーカー絶賛という帯の言葉を素直に信じておけばよかった。まさにエルロイ好みと思われる渾身の警察小説ではないか。例えば、マイクル・コナリーを初めて読んだときのヒット感に共通するものがあるのだ。

 一向に事件の全容が見えてこない謎の奥深さが、例えようもなく魅力だ。被害者たちのあまりに惨たらしい死に様は驚愕のインパクト。バスに轢かれてに切り離されてしまう死体。その事故を捜査している間に、もう一つのブラック・ダリアとも言うべきダーティ・サリーを発見してしまう主役刑事ダン・レリス。そして物語の進行に応じてあまりにも増え続ける死体の数々。主人公の感情は、量産される複数の死から死へと揺れ動き、振幅はとどまるところを知らない。

 主人公ダン・レリスの行動の部分だけを「おれ」の一人称で描きつつ、その他の部分では三人称と描き分ける。二種類の章を交互に進行させるため、死に行く者の孤独な行動について知らされるのは、ダンではなく読者の側である。

 そうした読者にとって黒幕らしき人間は初期段階ではっきりしているように思われるのだが、それ以上に巻き散らかされる死体と暴力の衝撃によって、ダンと同じく足元を掬われる。謎の核はとても掴みにくい。街ぐるみで起きている大きな犯罪の渦に呑み込まれそうな道程である。

 この大事件の舞台装置は、テキサス州オースティン。おお、わがリック・リオーダンの狂った聖地じゃないか。新顔であるマイケル・サイモンのオースティンは、さらなる狂気と暴力で煮え立っている。

 さて、ダン・レリスという男。この男の存在感もまた、リオーダンのトレス・ナバーと同じで、忘れ難い代物だ。家の中でドラムセットを、叩き、叩いた挙句、最後には殴り壊すその暴力的性向を持つ。ダンの阻害され、孤立した状況を、際立たせる一コマだ。

 顔のない死体となって発見される若い娼婦、ダーティ・サリー。彼女の正体を辿る捜査は、そのまま破滅の道を綴る女の旅として、ダンの心を重たく塞がせる。エルロイにとっての惨殺された母の人生であったもの。ブラック・ダリアがハリウッドに夢見た何ものかである。

 さらにその叫びに耳を傾けなかったばかりに、結果として見殺しにしてしまった若い学生の墜死。ダンの心が悲鳴を挙げる。

 強烈なコンプレックスと罪悪感とを、宿命に変え、心の揺らぎをそのままに自らの肉体も容赦ない深手を負いつつ、あざとくも冷血な敵を狩り出してゆく。その野獣のようなダンの生き様は、読後もずっと心のどこかにこびりついてゆく。

 このインパクトの強すぎる一匹狼ダン・レリスは、まるでダーティ・ハリーみたいに、ちゃんとシリーズ化されているらしい。すぐに、次作が読みたくなること請け合いの、強烈新人デビューだ。

(2006/11/19)