最も危険な場所



題名:最も危険な場所 上/下
原題:Pale Horse Coming (2001)
作者:Stephen Hunter
訳者:公手茂幸
発行:扶桑社ミステリー 2002.5.30 初版
価格:各\848

 もうすっかり死闘小説のゴールド・スタンダード作家となったハンターのアール・スワガー4部作の第2作目。ハンターというペンネーム(本名ではないだろう)も、あまりにもボブ・リー&アールたちにヒットしすぎる。初作である『クルドの暗殺者』の頃から、こんな物語がこの作家にあったろうかと考え込んでしまう。 

 しかし『真夜中のデッドリミット』以降、正直泣かず飛ばずで新作などもう和訳などされないのだろうと見限っていた作家が、『ダーティホワイトボーイズ』からこっち、どの作品もヒット、的確な銃弾を標的のど真ん中に射抜いて来ているここ数年のニュー・ハンター像をあまりにも強烈に打刻し続けている。

 そんな中でいくつもの名シーンを作りつづけていたハンターだが、本作はまたもシンプルで覚えやすい悪の帝国を密林と広大な湿地帯の向こう側に作り上げ、あまりにも印象的な対決の舞台を演出してのけた。タイトルの「場所」という言葉が表すとおりに、悪役は人以上にこの王国であり、ティーブズという町そのものである。敵である人間たち以上に、この場所そのものを消滅させるだけのパワーが必要になってくる。

 古く懐かしい昔話の時代である数十年前の物語であり、その距離感がこのようなありうべからざる町の存在を許しており、そのような寓話的な敵である無法の町が、まるで西部劇に出てくる武装したメキシコ軍の砦のように手ごわい。囚われのみになるアールの章から、プロを集めてゆくシーン、そして舞い戻るアールたちの襲撃で終わる大団円。シンプルかつタフ。小説の面白さ、ドラマ……そうしたものは、こうした描写力だけで十分だと言わんばかりに、戦いのシーンはまさにハンターの独壇場。

 印象的だったのは、古い映画館の古いウエスタンのフィルムを買い集めるアールの姿。恋愛映画でも何でもいいのに、敢えてウエスタン映画をこだわりつつ集めてゆくアールと、そのフィルムが戦闘にもたらす効果の驚愕! 作家的遊び心までたっぷりと堪能できる、やっぱり有無を言わさぬ骨太の大作なのである。

(2002.12.19)
最終更新:2007年05月13日 15:49