狩りのとき



題名:狩りのとき 上/下
原題:Time to Hunt (1998)
作者:Stephen Hunter
訳者:公手成幸
発行:扶桑社ミステリー 1999.9.30 初版
価格:各\781

 シリーズ最終作。思えばレベルの高いシリーズで、『クルドの暗殺者』以来の永い沈黙を破り、冒険小説界に思わぬ大復活を果たしたハンターであった。ボブ・リー・スワガーは間違いなく冒険小説ヒーローの一人の代表として後世に残ってゆく存在としてぼくらの中に深く刻まれた存在だと思う。その周囲にいた多くの勇士たちも含めて。

 さて構成という意味では上下巻が非常に分断された観のある本書なので、どうしても『極大射程の』長距離走者とは違った中距離走者たちのリレーを思わせる部分があり、前者の強烈な印象をこの作品で抜き去ることは印象的には難しいかと思われる。しかしそれでも名シーンという意味では、ぼくはこの作品は四作中でも抜きんでたものを感じる。

 もちろん『極大射程』でパンサー大隊を丘の上から迎え撃ったクライマックス・シーンも名シーンとして残るだろう。しかし『狩りのとき』ではベトナムにおけるボブの名を伝説にしたまでのたった二人による救援作戦そのものが、ようやく明らかにされてゆく。ボブというヒーローを作った最初の大きな作戦行動であり、それは熾烈で地獄のようだ。

 下巻に移るとスナイパー同士の一騎討ちが見所である。『もっとも危険なゲーム』などに代表される決闘シーンの歴史の中に、大きな1ページ(実際には126ページがそのために費やされている。126ページが!)を加えたシーンである。雪山の立体感を見事に利用して、それも詳細を描写し抜いて、たった二人の男が銃器を片手に対決する。これぞ冒険小説の醍醐味と言わずして何だろうか。

 ぼくはちなみに全体の構成からは『極大射程』が上だと思うが、名シーンぶりという点だけに絞ると、この『狩りのとき』がベストかなと思う。ボブのシリーズだけではなく、連綿と流れ続く冒険小説の歴史の中でもトップに入れたくなるくらいの名シーンではなかったかなと。思えば『ダーティ・ホワイト・ボーイズ』の野太いアクション・シーンの中にそうした「対決シーンの美学」とでも呼ぶべき予兆は確かにあったのだ。今になって思えば、なのだけれど。

(1999.12.26)
最終更新:2007年05月13日 15:35