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悪徳の都



題名:悪徳の都 上/下
原題:Hot Springs (2000)
作者:Stephen Hunter
訳者:公手成幸
発行:扶桑社ミステリ- 2001.2.28 初版
価格:各\781

 『悪徳の都』……ううむなんたるタイトル……これじゃまるでパゾリーニやフェリーニの映画ではないか。原題が固有名詞なんだから、そのまま『ホット・スプリングス』でいいじゃないか、というのが最初の感想。とっても不思議な邦題だ。

 ホット・スプリングスは実在の街である。そこで実際に起こった元軍人たちの蜂起という事件も、歴史的に記録された事実なのだそうである。スワガー・サーガそのものもアメリカの現代戦史に深く関わるものだとは思うけれども、この作品ほどに実名固有名詞が飛び交う作品というのは、今までにはなかったことだ。ボブ・リーの誕生直前、父・アール・スワガーの物語であるだけに、時代設定にきちんと念を入れた努力が窺われる作品。

 ハンターは、元々、スペイン現代史に材をとった『さらばカタロニア戦線』でデビューした作家である。本書でも、アメリカの矛盾、とりわけ戦争の意味・無意味を鋭く追求しながら、ランボ-のように帰還兵が彷徨わねばならない「報わぬ祖国」の土壌を描き、その上に逼迫してゆく男たちの軋轢と闘いのドラマを築いている。

 相変わらず銃撃戦の描写がとりわけ活劇ファンの心をくすぐってやまない。もはや、それが売りと言っていい作家であるだけに、この作品でも銃弾は雨霰と飛び交う。

 しかし、そうした血腥さの中にあって、二つのサブ・ストーリーが作品に奥行きを与えているのは、サーガ読者としては興味深い。一つは父チャールズ・スワガーの謎の死とアールの魂の遍歴に纏わる部分。もう一つはアールと妻ジュニィとの家族愛の問題。未来に繋がる母と子のドラマである。

 この辺をきちんと描き切るところが、ハンター作品をここのところ毎作成功させている最大最強の理由なのじゃないだろうか? あくまで人間主体のドラマがあって、そこに展開されるのが苛烈なアクションであるというバランスの妙。このあたりが、やはりハンター作品の徹底した強みなのだと思う。

(2001.04.28)