極大射程



題名:極大射程 上/下
原題:Point Of Impact (1993)
作者:Stephen Hunter
訳者:佐藤和彦
発行:新潮文庫 1999.1.1 初版
価格:各\667

 ハンターの作品をして、「アメリカ死闘小説」の新しい潮流……のように表現しておいてつくづく良かった……と感じさせられるこの一作。本国では『ダーティホワイトボーイズ』より以前に上梓されていた作品でありながら、さらにスケールの大きな作品に仕上がっている。この作品、ボブ・リー・スワガー初登場の野心作に比べると、ボブの起源とも言える『ダーティ……』は、けっこうくつろいで書かれた寓話のようにも思える(読んだ直後はあれほど圧倒されていたというのに……)。

 日本人である我々にとって、先に邦訳された『ダーティ……』は、近来稀に見ると言いたくなるような、硝煙と砂塵の薫る野太い筆致の死闘小説であった。そして『ブラック・ライト』での衝撃がその後に続いて、さらに、この『極大射程』の真っ向ストレート、どうだと言わんばかりにひたすら王道を行く死闘作品に、ぼくらはこうして出会うことができた。

 読書という言葉尻から捉えられるものは、通常、ひ弱で内気な何か間違った印象であるかもしれない。でも、そもそもが魂の冒険にいざなわれて、こうした作品に出くわしてしまう時を共有するときのぼくらは、何か秘められた誇りのような気分を禁じることができない。そうした読者の側の誇りと闘志を、いともやすやすと取り戻させてくれるのが、今、こうして油の乗り切った作家としてすっかり甦った観のあるスティーヴン・ハンターだ。

 この新しいハンターは、かつて『真夜中のデッド・リミット』という凄まじい傑作を書きながら、その後、日本の版元や翻訳家から忘れられていた悲劇の存在であった。読者からあれほど長いこと熱烈なカーテンコールを送られつづけたにも関わらず、ハンターは次第に冒険小説の流れから置き去りにされていった。

 プロットのシンプルさとストレートさ。主人公らの野太い生き様と不器用なまでの一途さ。およそ冒険小説が必要とする最大限の魅力がハンター作品には存在する。時を越え、ぼくらの記憶の底の西部劇ヒーローが、陽炎の向こうに銃を構えて立っている。

 平和を願う市民にとって、とてもまがまがしいイメージのある「銃」と「闘い」。それらが、ぼくらの眼を通し心を通して一つのピュアな神話になってしまうのはなぜだろうか? どうした心の働きがそんな無批判な憧憬を作り出してしまうのだろうか。時に、政治や宗教を離れて純情なガンマンに思いを馳せる、男たちというこの性懲りなき存在の底で眠る獣は何ものなのだろうか?          

 銃を扱う、というだけで十分に穢れて見える。だからこそ難しいのが銃を扱うヒーロー像ではないかと思う。銃を扱う上に穢れなき精神を描くということは、なかなか困難なことなのだ。そうした困難な道をひたすら辿ることで要求される作家的力量。これ以上ないという困難な射程を、クリアしてみせるハンターの腕の見せ所にひたすら唸る。悪くない。実に悪くない感覚であるのだ。今年もまた真っ向、王道を行け、と願いたくなる巨作、本年も登場! である。

(1999.02.15)