ハバナの男たち





題名:ハバナの男たち 上・下
原題:Havana (2003)
作者:スティーヴン・ハンター Stephen Hunter
訳者:公手成幸
発行:扶桑社ミステリー 2004.07.30 初版
価格:各\838

 何かリズムに乗れないと感じていたが、なるほど、巻末の作者謝辞を読んで納得。同じアール・スワガーのサーガに代わりはないのに、なぜこれほど今までの疾走感を失い、アールに存在感がないのかという疑問に、それは応えている。この作品は、初めてハンターがアイディアに枯渇し、編集者のアイディアを頂いて書いた作品であるのだ。

 舞台は革命以前のキューバ。タイトルどおりのハバナに、密命を帯びてやってくるアールというだけで、なんだかアールという人格を不自然に弄んでいる印象があったし、彼の胸中に存在する闘いへのモチベーションが他作品とダントツに違うのも納得がゆかない。政府の命令なんかで動いて何するの? 前作の流れとは土台乗りの違う成り行きに困惑する。

 フレンチー・ショートという若く、ダーティなCIA職員については存在感があるものの、例えば映画『デスペラード レジェンド・オブ・メキシコ』のジョニー・デップ演じたCIA工作員ほどにはどぎつさも個性も感じさせられない。他に数作で顔を出していたり、今後もまだ何かやらかしそうな雰囲気は持たされているものの、この程度の構図で作品が盛り上がるものとも思えない。

 革命前のキューバ、アメリカのコングロマリット進出、ソ連の影、若き日からカリスマでありナルシストであるカストロのやや戯画的な描き方、ヘミングウェイのゲスト出演など、通常の冒険小説であればこれという素材に事欠かないが、ことスワガーのサーガとして見ると格段の落剥を痛感させられる。謝辞は、弁明、とも受け取れないこともない。

 確かにラストの撃ち合いは、上手な西部劇監督であれば、上手く描き切れると思う。しかしロバート・ロドリゲス監督辺りがメガフォンを取れば、もう少しいけるのでないかと疑わせる程度であるところが、何とも寂しい。

 アイディアが枯渇したのなら書かなければいいのだ。作家と商売が必要上に結びつくとろくなことにならない。

(2004/08/29)